どうしてわかっちゃったんだろう??―大人は見ているんだ、と思った日―Ⅱ

幼い頃、近所の女の子と一緒に通っていた幼稚園。

家から園までは結構な距離があり、通園路の途中には踏切もあった。

ある朝、その踏切を渡ろうとしていた目の前で、ちょうど電車が近づいていたのであろう。

カンカンカンという警告音が鳴り始めたのである。

 

私と一緒に通っていたまゆみちゃんの二人は、一瞬立ち止まったものの、幼い頭の中で考えた。

 

『踏切の音は今鳴り始めた。遮断機が下りてくるまでちょっと時間がかかる。そのあと電車が通り過ぎるまではもっと時間がかかる。どうしよう・・・』

 

まゆみちゃんも同じように考えたかどうかは定かではないが、私はとにかくそう考えたのである。

 

そして・・

『ええい、渡っちゃえ !』

 

二人は遮断機が下りてくるギリギリのところで、その踏切を渡ってしまった。

 

そのあとは、なにごともなかったかのように幼稚園まで歩いて、いつものように園での日常を送るはずだった。

ところが、その朝に限って、園長先生が「皆さんにお話があります。」と、朝礼のようなものが始まったのである。

園長先生は

「今日は皆さんに大事なお話があります。今朝、園の近くの踏切で、電車が来る合図の音が鳴り始めたのに、二人の生徒さんが渡ってしまいました。こんな危ないことは絶対にしないでくださいね。」

と、みんなに注意を促したのである。

 

私とまゆみちゃんは誰のことを言っているのか、もちろん分かっていたので、園長先生のはなしをドキドキしながら聞いていた。

 

『どうしてわかっちゃったんだろう??』

 

あのとき、周りには他の園児も先生も誰もいなかった。

でも、おそらく誰かが見ていて、園に通報したに違いない。

 

結局、園長先生のお話はそれだけで、二人に直接注意というのはなかったのである。

このとき生まれて初めて、こっそり悪いことをしても、誰かがちゃんと見ているんだ、ということを自覚した。

 

 

つづく