バーカウンターは男の勉強机である!―或るバーテンダーとの会話・・・マスク美人の話―Ⅶ(おしまい)

行きつけのバーの老バーテンダーが放った

「近頃、巷(ちまた)にはマスク美人が溢れていますなあ・・・」

のひとことから始まった今回の美人談義。

ちょっと研究してみると、古来、美人を表現する言葉には実に様々なバリエーションがあって、しかも、美を賛辞するものだけに、これがなかなか楽しいということまで解明できた。

 

中でも四文字熟語で表現されたものは、おそらく中国伝来の言葉であろうから、大袈裟なものが多く、思わず笑ってしまう。

閉月羞花(へいげつしゅうか)・・あまりの美しさに月も引っ込み、花も恥じらうほどの美人のこと。

という表現は、美を比較する対象に月や花を持ってくるという大仰さで、しかもこれらの対象物を美しさにおいて凌駕するというのだから面白い。

まあ、こんな美人がいたらお会いしたいもんである。

 

もっとユーモアに富んでいるのは

沈魚落雁(ちんぎょらくがん)・・これ以上の美人はこの世にいないという例え。

で、これはおそらく、あまりの美しさに目が眩んで、魚は水底に沈んでしまい、雁は空から落ちてしまう、というほどの意味だろうが、まあ大袈裟な言い方にもほどがある、といった感じである。

 

上記の2つに比べて

仙姿玉質(せんしぎょくしつ)・・並外れた美人の形容

は、表現にやや節度があり抑制が効いていて、なんだか語感の格調も高い。

美人を口説きたいときに、こんな言葉をさらりと使えば効果的かも知れない。

 

言葉の追求というのは、いわば文化の追求である。

いくら掘り下げてもきりがないし、また掘り下げたところからさらに広がっていく様を楽しむことができる。

 

「バーカウンターは男の勉強机である」

とはよく言ったものである。

で、この言葉はそのまま、今回登場していただいた老バーテンダー、島地勝彦氏の著書のタイトルでもあるのだ。

 

人生、いつでもどこでも勉強。

中でもバーカウンターは、特に男性にとって、極めて良質の勉強机なのだ。

 

今の世の中、女性はカルチャー教室に通うなど、学習に余念がない。

男も負けていられない。

島地先輩と対峙できるバーカウンターは、これ以上ないくらいの上質なカルチャー教室であり、また道場でもある。

 

これからも、軽い緊張感を持ってこの道場には通い続けたいと思っている。

 

       この夜の極上の1杯とカウンター越しに見る島地バーテンダー

おしまい