忘れる名人は生み出す名人?!?―記憶力の低下とシューベルト―Ⅰ
先日、書き上げた文章をこのブログにアップした。
少し前に書いた文章で、まだアップしていなかったので、早くアップしなければもったいないと思い、急いで載せたのである。
ところが、一日たって一人の社員からメールが入った。
「所長、昨日のブログは2週間前に同じものがアップされていますよ。」
「えっ!」と驚き、確認してみると確かに同じものがアップされている。
すでにアップしていたことをすっかり忘れていたのである。
さすがに、これはやばいな!と思った。
近年、結構物忘れが多くなってきていたとはいえ、自分で書いた文章をネットにあげたかたどうかを忘れるとは思わなかった。
文章を書くというのは、いわば創作活動である。
何かテーマを見つけては、それに対する見解といったものを文章化し、ネットの世界に発信していくのだ。
創作活動としての作文というのは、引用などと違って結構苦労する。
自分の頭で考えながら捻りだしていかなければならない。
そうやって苦労して書いた文章を、通常であればそう簡単に忘れるはずもない。
ところが近年、それさえも怪しくなってきたのだ。
読んだ本の内容をあまりきちんと覚えていない、というのは以前からあった現象で、加齢とともに仕方のないことだと思っていた。
しかし、書いた文章まで忘れるとなると、ちょっと心配である。
そんなことがあって、しばらく落ち込んでいたら、ふとあることを思い出した。
それはシューベルトが物忘れの名人だった、ということである。
一番よく聞くエピソードは、シューベルトの弟子が、
「今度この曲を演奏したいのですがどうでしょうか。」
と聞いたとき
「なかなかいい曲だね。だれの作曲なんだい?」
と返事をしたというものである。
それを聞いて、その弟子は仰天した。
何故ならば、その曲は、それほど以前ではない時期にシューベルト自身が作曲したものであった。
つまり、シューベルトは、自分で作曲した曲を覚えていなかったのである。