こ、これ、どうやって入るの?!?―五右衛門風呂の思ひ出、昭和、お釜の中に入っていたあの頃―Ⅰ
私の父は私が小学校4年生の頃、税務署を退職して税理士を開業した。
それまで住んでいた町からお隣りの県に引っ越して、新しい町での開業であった。
引っ越した家は借家の2階建てで、父は1階の一間を事務所としてのスペースにあてた。
すぐ隣の部屋は茶の間という、守秘義務は大丈夫か?!?といった、今考えれば信じられないくらい狭い間取りからの出発だったのである。
ところで、私が幼いころまでは、一般庶民の家にはお風呂はなく、銭湯に行くのが普通だった。
小学低学年までは、私も父と自転車に乗って、町内の銭湯に通ったものである。
さて、新しい家には、内風呂は一応あるにあったのだが、それはどう見ても母屋にあとからくっつけたとしか思えない掘っ建て小屋みたいな空間だった。
で、そこで見たものに最初仰天したのである。
その掘っ建てスペースの中には、直系1メートル弱くらいの大きな黒い釜がしつらえられていた。
お釜の下は火を燃やすかまどのような作りになっているので、どうやら下から火を焚いてお風呂を沸かすようだ。
これが、私が生まれて初めて見る五右衛門風呂だった。
引っ越す前、父がまだ税務署職員だった頃住んでいた借家にも、薪で下から沸かす方式だったとはいえ、普通のお風呂はあった。
たぶん、タイルか何かで作られていたのだと思う。
ところが新しい家の新しいお風呂は、それまで見たこともない鉄の大きな釜だったのである。
「こ、これ、どうやって入るの?!?」
私の頭の中は、整理がつかずグルグルと空回りする。
そこでよく見ると、お釜の横に、お風呂の直系よりは2回りくらい小さな丸い板で作った簀子(すのこ)のようなものがちょこんと置いてあった。
「なんだこれは?!?」
これが底板として使われる浮き蓋だったのである。
お湯を張ったお釜の湯船に入るときは、これを浮かべてそれに乗り、お釜の底にちゃんと平行に到達するように沈めるのである。
そうしないと、お釜そのものは鉄でできているので直接触れると火傷するのだ。
実際はもっと暗くて粗末でした。
つづく