檸檬―ほろ苦き青春の思ひ出―Ⅲ
私の通っていた大学は、御茶ノ水駅の聖橋側の出口から降りて、ニコライ堂の巨大なドームを右に見ながら坂を下った先にあった。
そのままさらに進めば神田の古本屋街である。
聖橋の架かるこちら側は、スクランブル交差点のある水道橋側よりは静かな界隈で、紅葉の季節になれば、銀杏の並木が美しかった。
ニコライ堂の重厚な佇まいが、落ち着いた街並みによくマッチしていた。
私は、通っていたその大学で彼女と知り合い、つきあった。
違う学部だったその子に、大学の中庭で私が声をかけたのだ。
水道橋側の坂を下って右に入った路地の途中に「サラファン」というロシア料理店があった。
つきあって間もない頃、そこでランチデートをしたときのことである。
私たちを見て、学生であまりお金もないだろう、と察したのか、その店のロシア人の女主人が、ランチについていた一人分のボルシチ(ロシアのシチュー)を2皿に分けてくれたことを覚えている。
普段の私たちは、講義の合間に時間を合わせ、並んで大学の中庭を横切り、地下にある学生食堂で食事をした。
たまの贅沢が、上記のような、リーズナブルな店を選んでのランチデートだったのである。
そんなフワッとした甘い青春のような恋愛関係がしばらく続いたような気がしていたが、よく思い出してみると、それは1年続いたかどうかの割と短い期間だったのだ。
やがて、私がこっぴどくフラれるという形で二人の関係は終わりを迎える。
ところが、どうしても納得のいかなかった私は、その後も随分ジタバタした。
やりきれない気持ちを抱えて、御茶ノ水界隈を右往左往していた自分のことを、懐かしいような、半ばあきれるような気持ちで思い出す。
東京の夕暮れ
つづく