もっとやらなければならないことはいくらでもある―上司の悪口を肴(さかな)に飲む酒は・・・―Ⅴ(おしまい)
大きな方針の変化を組織に根付かせることは難しい。
だからといって、そんなとき、子供っぽい押し付け、或いは脅しをかけるようなやり方は最悪である。
私も、父から事務所を受け継いだとき、大きく方針を変えていくことに挑戦した。
時代の変化が激しく、旧来のやり方だけでは今後の発展性が望めないと判断したからである。
私の仕事の場合、ルーチンとしてやるべきことがそれほど変わるわけではないので、それはそれでキープして、新しい切り口を加えていくことになる。
しかし、それまでその仕事だけで済んでいた旧来のメンバーにとっては、負担としか思えなかったようだ。
その当時彼らは、上司の悪口を肴に飲む酒、に終始していたらしい。
あとでいろいろと私の耳にも入ってきたが、それは仕方のないことと割り切っていた。
こういった状況は、父との事業承継が終わるまで何年も続いた。
そう簡単に、私の方針が浸透するはずもなかったからである。
こういうとき、私が常に念頭に置いていたのは、私の力量不足ということであった。
理解しようとしない職員が悪い、とは思わないようにしていた。
上司の悪口を肴に酒を飲んでもいい、そのうちわかればそれいい、と考えるようにしていたのである。
とはいえ、私の考え方や方向性、方針といったものを常に伝え続けることは怠らなかった。
こういった大きなテーマについては、私と職員たちとの間にはある程度距離があり時間がかかるのは仕方がない、と思っていたからである。
飲み屋での悪口程度に目くじらを立てている暇はなかったのだ。
部下は、上司の悪口を肴に酒を飲むもんだ、と思っていた方がいい。
しかし、部下の側もいつまでもそんなことを続けていたのでは、自分の成長がない、と自覚していた方がいい。
もっと考えたりやらなければならないことは、いくらでもあるからだ。
上司の悪口など、本当にほんの軽い酒の肴程度にしておいた方が君のためにもいいと思うよ。
おしまい