今こそ日本が世界に範を示すとき―民主政治の危機、その脆弱さについて考える―Ⅸ(おしまい)
細谷教授は、日本とドイツが担う責務に関してさらに突っ込んだ見解を述べられている。
それは、先の戦争を通じて、両国が経験してきた苦い歴史に起因しているのである。
両国が抱える責務とその役割について、細谷教授は次のように述べられている。
―日本とドイツは、20世紀の歴史の中で民主政の瓦解に直面し、第2次大戦後にこれを復興させた。
現在の日独両国の安定は、民主政の崩壊がもたらす深刻な問題を他の国々より熟知しているからかもしれない。
だからこそ日本は、他国にもまして、「民主政の終焉」がもたらす恐怖と、中国のような権威主義体制がはらむ問題を世界へ積極的に伝える責務がある。―
日本やドイツの民主政が、現在比較的安定しているのはその通りだと思う。
しかし、第2次世界大戦にまで遡って、その要因があるという考え方はしていなかった。
確かに今の日本には、アメリカのトランプ大統領やロシアのプーチン大統領のような強面(こわもて)の指導者が出てくることを期待するような風潮はない。
だからといって、かつてのような猫の目のようにクルクル変わる総理大臣というのも、もう勘弁してもらいたいと思っているはずである。
現在のような、安定した政権による安定した国家運営を望んでいるのである。
しかし、細谷教授はそこに甘んじていてもいけない、と警鐘を鳴らす。
それは日本やドイツ以外の国で起こっている「民主政の崩壊」に危機感を募らせているからにほかならないのである。
細谷教授はこの小論文を次のように結んでいる。
―我々は、政治に民意を過剰に反映させることが、常に幸福をもたらすわけではないという事実を歴史から学ぶべきだ。
民主政がはらむ深刻な陥穽を直視した時、初めて我々は「民主政の終焉」を回避できるのではないか。―
現在の安定した政権だからこそ、上記のような役割を果たすことが可能なのである。
今こそ日本が世界に範を示すときなのだろう。
おしまい