制度や法律のみで民主政の基盤が安泰なわけではない―民主政治の危機、その脆弱さについて考える―Ⅲ
意外に危うい民主主義の現実・・・アメリカが直面している現状にかんがみて細谷教授は次のように書かれている。
―深刻なのは、戦争や革命、テロといったニュースであれば、すぐに報道されるが、そのような静かで構造的な変化が進行しているさまは、多くの人に気づかれにくいことである。
各国には立派な憲法があり、選挙もきちんと実施されている。
だが、制度や法律のみで民主政の基盤が安泰なわけではない。―
「静かで構造的な変化が進行・・・」この言葉は恐ろしい。
例えば、トランプ政権の支持母体に「キリスト教右派」の白人たちがいる。
彼らはアメリカ国民の中では良識的でまじめな生活を営んでおり、一見過激なタイプではない。
しかし、全面的ではないもののトランプ政権と思いを一致するところがあり、支持に回っているのだ。
そこには、混迷するアメリカ社会の中で、他を排除してでも保守的白人社会を守りたい、といった意図が見て取れるのである。
細谷教授は「民主主義の死に方」の中の次のような記述を引用しておられる。
―「軍事クーデターやそのほかの暴力的な権力の奪取はまれであり、ほとんどの国では通常通り選挙が行われている。
それでも民主主義は別の過程を経て死んでいく。
冷戦後の民主主義の崩壊のほとんどは、将軍や軍人ではなく、選挙で選ばれた政治家が率いる政権そのものによって惹き起こされてきた。」―
歴史上、ある国で発展した民主政という「政体」が崩壊する例はいくつでもあるらしいのである。
そしてそのプロセスにおいては選挙もきちんと行なわれているというのだ。
近現代史の中のこういう事実を、我々はもっとちゃんと知っておかなければならないだろう。
そうでなければ、いつの間にかまた大きな過ちを繰り返すことになりかねない。
このあと細谷教授は、いくつかの事例をもとにこの点について述べておられる。
つづく