父が逝った―亡くなるまでの1週間を振り返って―Ⅲ
私と母だけが残った。
お医者さんが口を開く。
「人口透析を拒絶されてからこちら、既に数値が極めて厳しいレベルまで来てしまっています。
いろいろ検査して、現在の状況に関する疾患部分を特定できないことはないのですが、基本的には透析をしない中での他の治療はほとんど意味がありません。
透析を拒絶されている、という選択がすべての基礎になっているので、これ以上特に何か処置することはないのです。
もしご家族の同意が得られるのであれば、今行なっているすべての治療やお薬をやめて、本人が痛がったり苦しんだりしないような、緩和医療に切り替えようと思うのですがいかがですか。」
と、聞かれたのである。
父は以前、人工透析をするかどうか聞かれ、自分の意思ではっきりと拒絶していたのである。
お医者さんのこの言葉に対して母は、まだピンと来ていないのか
「どうも最近、食欲が落ちてですねー。
リハビリでもうちょっとしっかりと歩けるようになればですねー。」
と、相変わらずずれたことを言っている。
私が少し声を荒げた。
「お母さん!お医者さんはもう最後の処置、緩和医療のことをおっしゃっているんだよ。
苦しんだり痛がったりしないで穏やかな死を迎えるには・・・という意味のことを言われているんだよ。
それがわからないの!」
母が黙る。
つづく