私の少し困った原点―この仕事の出発点で刷り込まれたもの―Ⅰ

 

大学を出て新宿にある公認会計士事務所に勤め始めてしばらく経った頃の話である。

最初に行かされた研修は「中小企業経営者は何故税理士に顧問を頼むのか」といった内容だったように記憶している。

何といっても昔のことなので細かいところまではっきりとは覚えていないが・・・

 

とにかくそのとき講師に、税法がややこしいこと、会計処理を間違った時のリスク、税務署との関係など、どちらかといえばネガティブな理由により、中小企業のオーナーは我々に税務顧問を頼むのである、といった説明だった。

そうすると、セミナーの終わりに会場からこんな質問が発せられた。

 

「税理士との信頼関係を築くことができれば、いろいろアドバイスとかもらえるから助かる、安心できる、だから顧問契約を結んでいる、といった意見はないのですか?」

と、質問者はこんなことを聞いてきた。

全くの新人だった私も心の中で

『そうだよなあ~、そこのところ聞きたいよなあ~・・・』

と思ったのを覚えている。

それに対する講師の答えは

「いや、そんな意見は聞いたことがありません。残念ながら進んで顧問契約を結びたいというお考えの経営者に会ったことはないです。」

といったものだった。

私は再び心の中で

『そうなのか。税理士との顧問契約は仕方なく嫌々結ぶものなんだ・・』

と、思ったのである。

不幸なことにこれが、この仕事を始める原点、出発点になってしまった。

 

 

つづく