「惰性」というものの怖さⅤ
中には名刺も持っていない経営者もいたのである。
名刺を販促物と呼ぶかどうかは何とも言えないところだが、よもや社長が持っていない、という事実にはいささか驚いた。
それだけではない。
ビジネスの開始にあたって名刺を交換するという、我々からすると普通の商習慣にも結構慣れていない社長が多かったのである。
おそらく「そんなもん無しでもどうにでもなる。」という、地縁血縁による地域社会の結びつきで商売が成り立ってきたのだろう。
ましてや、ちょっと踏み込んだ販促物など有りようもなかったのである。
ビジネス環境のあまりの違いにいささか驚いた私であったが、こっちもこのレベルに合わせている訳にはいかない。
私は私で事務所のパンフレット、サービス商品のカタログなどの作成に取り掛かった。
とはいえ、東京の頃みたいに、カメラマンやイラストレーター、コピーライター、グラフィックデザイナーなどが身近にいる訳ではない。
まずはそのレベルは諦めて、所内で作成にかかった。
若い職員に命じて、お絵かきソフトに毛が生えたようなPC用のソフトで作ってみた。
しばらくして、ソフトのレベルを上げて、事務所案内だけではなく、セミナーのお知らせやキャンペーンの告知などもまめに発信したのである。
つづく