「奪還」・・スバルの矜持Ⅳ
リーダーである辰巳英治の車に対する哲学は明確である。
それは「とにかく速い車」ではなく「運転しやすい車」だった。
他のチームはこぞって「速い車」を追求していた。
レース車両なのにそれでいいのか、の疑問もあったことは確かである。
「速い車」と「ボディ剛性」は普通比例する。
ボディ剛性をガチガチに固めれば、車は速くなるのだ。
ただし、その分車を操る技術は高度化し、運転そのものは難しくなるのである。
当然ドライバーの疲労は激しい。
スバルの辰巳英治総監督は、長い耐久レースにおいては「運転しやすさの追求」が「速さの追求」に勝るのではないか、と判断した。
番組では、そのことを象徴するフレキシブルタワーバーという彼が開発したエンジン部分の部品がレース車両のボディに組み込まれる様子が映し出されていた。
こういった取り組みはレースにおいて初めての試みであった。
見ていて、これは言わば一つの「賭け」だったのではないかと思った。
しかし、その判断は正しかったのである。
結果、辰巳監督が選んだ耐久レースにおける「運転しやすさ」という選択は圧倒的な強さで終わった。
つづく