コスパの意味を改めて考えてみた―まさか日本衰退の原因とは思ってもみなかった件について―(後編)
値段と品質がつりあっていたとき
私の場合、先述のように「安さ」のみに依拠して、コストパフォーマンスの良さというものを感じることはなかった。それでは私が感じる「コスパの良さ」とはどのようなことを指すのであろうか。
それは一言で言えば「値段と品質がつりあっていたとき」ということになる。だから、思わず出てくる言葉として「これってコスパ的にちょうどいいんじゃね。」みたいな表現が多くなる。
つまり、その対象の価格が高すぎても安すぎても私からこの言葉は出てこないのだ。高すぎるときはもちろん使わない言葉だが、一般的に「安い」という印象を与えたときに使われているとしたら、私はそう感じたときでも使わなかった。
逆に妙に安いときには、「リーズナブル」という言葉も出てこない。
『これって品質は本当に大丈夫だろうか。』
とか
『これじゃあ事業者は採算が取れないんじゃないか。いったいどうしているんだろう?』
とか考えてしまうのだ。そんな風に感じる時点で、私にとって「コスパがいい」とは言えないことになる。
コストパフォーマンスは経済用語
コストパフォーマンスの意味について、大江氏はそもそもの出典として次のように書かれていた。
―(コストパフォーマンスは)日本語でいえば「費用対効果」といっていいでしょう。(中略)元は英語ですが、実際この言葉は、欧米では製造業などにおける費用と便益の計算をするための経済用語として使われているだけで、日常ではほとんど使われることはありません。―
ということで、もともとコスパというのは、今の日本の日常生活で使われるような「安けりゃよし」という意味ではなかったのだ。
そこで、押し付けるつもりはないが、コストパフォーマンスという言葉に対しては、できれば若い人を含めて、私みたいに考えて欲しいと思っている。それは即ち
「モノ(こと、サービス等)と価格がつりあっていてちょうどいいじゃないか。」
という判断である。
事業者側に立ってみれば分かるはず
何故そう考えた方がいいのか。
これは誰でも、自分が事業者側に立ってみれば分かることである。
自らの提供するモノやサービスが正当に評価された、ということにほかならないからだ。
顧客に「いやあ、あんたんところは他より安いっていうのが取り柄だねえ。そこんとこがいいからあんたんとこで買うんだよ。」とだけ言われるとしたらどうだろう?
それってなんか寂しい。事業をやっている甲斐が感じられないのではないかと思う。
「提供するものやサービスの質もいいし、価格も適正である」という評価こそが商売の基本ではないだろうか。事業者側も消費者側も、安さだけを追求していたのでは、大江氏が指摘されていた通り、これまでの日本みたいに疲弊してしまう。私みたいな考え方をせずに「安い方がいい」ということだけを判断基準にしてきたツケが、日本経済の長期低迷といった形で現実化したのかも知れない。
少し似ている「メリットデメリット論」
ちょっと話がズレるかも知れないが、ここで思い当たったことがある。それは「メリットデメリット論」である。
以前、このブログで書いたことがあるが、今の若者が結婚を「メリットデメリット論」で判断していたのが気になった。ネット番組の街頭インタビューに対して「結婚にはデメリットしか感じない。」とか「一人の方がメリットが大きいから。」といった答えを発していたのである。
これに対して私は「おいおい、結婚をメリットデメリットで判断するなよ。そんな基準で考えるものじゃないだろう。」と、画面に突っ込んだものだ。
「コスパ論」にしても「メリットデメリット論」にしても、その根本にある価値判断基準を日本語で言えば「損得勘定」ということになる。
私は「損得」という判断基準は、極めてレベルの低い価値観だと思っている。
もちろん私を含めて多くの人間が、日常この基準で様々な判断を下しているわけだが、大事な場面ではもっとレベルの高い判断基準で物事を考えて欲しいと思っているのだ。結婚なんてその最たるものである。
結局「銭勘定(ぜにかんじょう)」に行き着く
結婚を「メリットデメリット論」で考えている若い人たちに考えてもらいたいのは、そもそも、そういった制度(婚姻制度という)が確立されていて、その結果として家庭があり家族が形成されていたからこそ今の自分が存在している、ということである。生きていてありがたいと思うのであれば、そこに思いを寄せるべきだろう。
コスパ論にしてもメリットデメリット論にしても、その根底にあるのは「損得勘定」であり、それは結局「銭勘定(ぜにかんじょう)」というところに行き着く。
もちろん金銭は、生きていく上で大きな要素の一つではあるが、物事の判断基準の最上位に持ってくるべきではないだろう。そうすると、もっと大事なものを見誤ることになってしまうからだ。
金銭に関する判断基準についても、大江氏は先述の著書の中で、私と同じような感想を持っておられた。若い人にはまだなかなかピンとこない内容の著作かも知れないが、自分の築いてきた資産、財産について思いを寄せる方は是非読んでみたらどうですか?という一冊であった。
こいつは珍しいカミさんとの2ショット。
結婚のメリット? もちろん、大いにありだよ。
おしまい

