コスパの意味を改めて考えてみた―まさか日本衰退の原因とは思ってもみなかった件について―(前編)
私が本を購入するときの傾向
本屋に行くのが好きである。店内をグルグル歩いていて知的刺激を受けるというのは、頭にも身体にも良い影響を与える気がする。
とはいえ、近年購入する本のジャンルに、やや偏りが見られ始めている。その偏りというのは、どうもジェネレーションによるところが大きいのだ。
老人専門医であり、多数の著書を上梓しておられる和田秀樹先生の「70歳が老化の分かれ道」とか「80歳の超え方」とか「老後に楽しみをとっておくバカ」とかもう何冊も読んでいる。現在、そして今後の生き方の指標として随分勉強になっている。
さらに最近、帚木蓬生さんというお医者さんの書かれた「老活の愉しみ」などと言うタイトルの本も買った。やはり、現在自分の置かれている立場(73歳、独居老人)と世の中の状況を、切り離して考えることはできないでいるのだ。
ジェネレーション論的な書籍以外に、同じくらいのボリュームでよく読むのは、やはりビジネス本である。中でも、成毛眞氏や楠木健氏、山口周氏などの著作はよく読んでいる。
ただ、こんな自分の傾向にもちょっと修正を加えて、そういったジェネレーション論やビジネス論とは無縁の、例えば昔よく読んでいたような文学作品なども、また読まなくっちゃなあ、とは思っている。
「使い方」ではなく「減らし方」
さて、前置きが長くなってしまったが、そんな私がいつものように本屋店内をブラブラをしていて「ん?」と気になる書籍が目についた。本のタイトルは「お金の賢い減らし方」。このタイトルも気にかかるが、さらに「90歳までに使い切る」という枕言葉までついている。
つまり「90歳までに使い切るお金の賢い減らし方」ということになる。お金の「使い方」ではなく「減らし方」?
こいつにはちょっと興味を引かれた。この書籍、大江英樹氏という経済コラムニストの著作である。
まあ、若い人向けでないことは確かだが、100%ジェネレーション論とは言えなさそうだ。「お金を使い切る」となると仕事との絡みも考えられなくはないが、おそらく基本個人的な世界が本筋だろうから、ビジネス本とも言えないだろう。というわけで、その日私は、新書版のこの本を購入したのである。
全体的に面白い本だったのだが、その総評的な内容はまた別の機会に書くことにしようと思う。私がこの本の中で気になったのは、コスパ、即ちコストパフォーマンスに関する記述だった。この点について論を深めてみたい。
想定外の新説!
コスパについて大江氏は次のように書いておられた。
―(日本が)他の先進国に比べて生産性が高くならないのは、ある言葉のせいだと思っています。
その言葉は「コスパがよい」というフレーズです。(中略)
私は、この言葉が、日本経済を長期にわたって低迷させている最大の原因だと思っています。―
おぉーっと、これは私にとって想定外の新説だった。確かに「コスパがいい。」という言葉は、私もときどき使う。ご飯を食べに行って、それなりにうまくて料金も納得のいくものだったら「お、このレストランなかなかコスパいいんじゃね。」といった感じで使ったりする。その他、日常のちょっとした場面でこの言葉を使う機会はときおりあったりするのだ。
ただそれは、上記程度の軽い状況の時であり、大江氏が言われる「日本経済を長期にわたって低迷させる」などと思ったことはなかった。となると、私と大江氏、両者の間にあるのは、どうもこの言葉に対する解釈の違い、ということになりそうである。
「コスパ」と「リーズナブル」
そこのところを深掘りして考えてみた。そうすると大江氏の次のような記述に行き当たった。
―我が国で使われている「コスパがよい」という表現は、値段の割に満足度が高いとか、お得感があるという感覚で使われているからです。別の言い方をすれば、「よいものを安く」手に入れたり、味わったりできることを「コスパがよい」というのです。―
これを読んで、私は「なるほど、そこか。」と、思ったのである。
確かに「安さ」が、消費者の一人としてはありがたく、魅力的であることは間違いない。ただ、私の場合、大江氏の書かれているように「安さ」対してだけコスパがいい、と考えたことはなかった。
何か「安い」と感じたとして、それをやはり横文字で表現するとすれば「リーズナブル」という言葉は以前から使っていた。思っていたより安いな、と感じたときは「コスパがいい」と言うよりは「なかなかリーズナブルじゃん」という風に使っていたような気がするのだ。
尤も、この「リーズナブル」も大江氏の言われるように、日本経済に悪い影響を及ぼしかねない、とまでは考えもしなかった。まあ、リーズナブルという言葉については、今日の主題ではないのでこれくらいにしよう。
おそらく「コスパ」という言葉は、大江氏の言われるように、安いと感じたときに主に使われているのだろう。特に若い人にその傾向が強いのではないか。
某レストランの前菜、ここはコスパがよかったようで
つづく

