ふと思い出した「嫌な奴」―お前とは二度と会わんでいい―
別に何のきっかけもなかったのだが、「嫌な奴」のことを思い出した。
「そういえばあいつ、どうしているんだろう?」とさえ思わない、どうでもいい奴なのだが、そいつのことを思い出したので、ちょっと書いてみようと思う。
Aは高校のクラスメイトだった。
当時から、ちょっと気取ったお高く留まった感じの嫌な奴だったのだが、他の仲間も含めて多少の交流はあった。
その後、大学受験ということで、私もAも上京したのだが、二人とも現役では失敗してしまい浪人の身となった。
その浪人中の話である。
ある日、Aから連絡があった。
ちょっと会わないか、ということだった。
前述のように、大して好意を持っていたわけでもなかったので、乗り気ではなかったのだが、Aがどうしても会おうよ、と熱心だったので仕方なく渋谷で待ち合わせることになった。
私は時間通りにハチ公前で待っていたのだが、いつまで経ってもAはやって来ない。
とうとうその日はすっぽかされたようで、私は腹を立てながら帰ったのである。
携帯もない時代の話である。
かなり頭には来たのだが、こっちから連絡することもなく、ほっぽらかしていた。
すると、またAから連絡があった。
「この間はすまんすまん。お詫びにまた会おう。」
と言ってきたのだ。
私はまず
「なんで来なかったんだよ!?」
と問い詰めた。
当たり前である。
すると
「いや、なんかあの日はお前も来ないような気がして。行かなくてもいいんじゃないかと思って・・」
と、まるで意味不明の言い訳にもならないような言い訳をする。
私はどっちでもいいやと思い、
「とにかく、もう会わないでいいよ。」
と伝えた。
しかし、Aは結構しつこかった。
「何としてもお詫びをしたいから会おう。俺がおごるから会おうよ。」
とやたら粘るのだ。
私は根負けをして仕方なく会うことにした。
やはり同じ渋谷で待ち合わせて、今度はAはやってきた。
どこか居酒屋みたいなところへ行って飲み食いしたのだろうけれど、その辺は覚えていない。
問題はそのあとだった。
支払いの段になって、Aは「じゃ割り勘で」というではないか。
私はあきれ果てて
「お前のおごりじゃなかったのかよっ!?」
と、気色ばんだのだが、Aは意に返さない。
どんなやりとりをしたのかもう細かいことは覚えていないけれど、とにかく
『こいつとはどうせ最後だから・・』
と、割り勘にしたような気はする。
帰り際、Aが
「また飲もうな。」
とノー天気に挨拶してきたが、さすがに私も
「いや、もう二度とお前と飲むことはない。」
と言って別れた・・・んじゃないかと思う。
どうもはっきりとは覚えていないが、きっとそれくらいのことは言ったはずだ。
こう書いていて、自分でも自分の人の好さにはあきれてしまう。
まあ、人が好いというよりは、どう考えてもアホである。
長く生きているといろんな人間に出会うものだが、特に利害関係もなかった学生時代に、これほどおかしな裏切りみたいなことをした奴はいなかったような気がする。
その後、一回も会うこともなかったし、どうでもいい人間なのだけれど、ふと思い出したのでそんな「嫌な奴」の話を書いてみた。
今では私が「いやな奴」ですか?