文学と哲学に関する極めて私的なそれほど深くもない一考察（前編）

昔から文学が好きだった。

大作から小品に至るまで、まだ子供の頃から古今東西の文学作品（主に小説ですが）をよく読んでいた。

いったい、文学のどこにそんなに惹かれたのだろう？と、思い出してみるが明確な答えは出てこない。

ただ、文学そのものが持つ独特の香りのようなものが好きだった、という曖昧な結論に行き着くだけである。

 

人間の心の階段をその奥の深い場所まで降りていった先にある深淵なる世界、その本質について言葉を駆使し、芸術性を孕んだ様々な切り口でそれをえぐり出すのが質の高い文学作品だと思っていたし、今でもそう思っている。

ただこれは、主として、純文学の世界を指すのだろう。

 

小学生の頃は「少年少女文学全集」が実家にあったので、童話や民話など含めたいろんな作品を読んでいた。

やがて、高学年になる頃には、夏目漱石や芥川龍之介、太宰治といった大人の文学先品にも触れ始めていた。

これらの作家は、その後個人全集も購入して、より深く読み進んだのである。

夏目漱石全集と芥川龍之介全集

中学生くらいになると、さらにその世界は広がって世界の文学なども読むようになった。

中でも私は、ドイツ文学、ロシア文学が好きで、一人の作家を選んでは、こちらについても全集を購入し、その作家の作品を徹底して深堀りしながら読んだりしていた。

個人全集として出版されていない作家（多くの作家はそうだろうと思う）については、文庫本などでその作家の作品をできるだけ集めて読むようにしていたこともある。

 

現在、我が家の書棚には、ヘルマン・ヘッセ作品集、トーマス・マン全集、ドストエフスキー全集などが並んでいる。

ドイツ文学、ロシア文学である。

とはいえ、今まで読んだ中で一番の大作は、ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」というフランス文学ではあるが。

ドストエフスキー全集

 

 

とにかく、文学の持つ独特の世界観が好きだったのである。

そのほとんどが、年齢不相応の難しい作品だったにもかかわらず、随分背伸びして読んでいたような気がする。

 

そこで学んだのは、人間というのは、表面的に見ただけで理解できるものではなく、実は内面にかなり複雑な要素を孕んだ生き物なのだ、ということだったのかも知れない。

そこからさらに想定されるのは、人間の大きな目的が「よりよく生きること」「より幸せな人生を追求すること」だとすれば（ほとんどそれしかないだろう、という結論ではありますが・・）それを手に入れるのはそう簡単な話ではない、ということである。

 

多くの文学作品の中に投影される様々な人々の人生には、さらに様々な思いや心情のようなものが絡まっている。

それらの作品の中では、人間の本質や本性が、それほど単純なものではないことが巧みな文学的表現で著されていた。

 

特にドストエフスキーなどを読んでいると、その感を深くせざるを得なかった。

「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」などの作品をからは、人間の持つ残忍性や狡猾さ、それとは裏腹の寛容性や優しさ、また篤い信義があるかと思えば裏切りがあるといった二律背反性、このように人間の心が一面的な見方では説明がつかないのだ、ということを教えられた気がする。

 

文学は、まずは純文学と大衆文学の２種類に大きく分けられていると思う。

私の家には、上記の「少年少女文学全集」のほかに筑摩書房の「現代文学大系」という日本の作家の文学全集と、中央公論社の「世界の文学」という世界の著名な作家の作品を集めた全集が置いてあった。

 

これらの全集に収録されていたのはいずれも純文学の作品で、大衆文学的なものはなかったと思う。

私は「少年少女文学全集」の世界から割と自然に卒業して、それらの作品を読むようになった。

 

こうして、古今東西、数々の純文学の作品を通じて、文学に対するこれまで述べてきたような考えを持つようになったのである。

結果的に思春期の頃には、かなり難しいテーマについても考えたりしていた。

 

まだ、未熟極まりない少年時代から、こんな世界に足を踏み入れたのは、やはり本質的なところでこの世界が好きだったからに違いない。

私にとって、文学というのは、自分が極めて軽薄な人格であるにもかかわらず、多少なりともまともにものを考えさせてくれる貴重な世界だったのである。

 

 

後編へつづく