自分のものになさいませんか?―我が家にアートがやってきた―Ⅲ
散歩の途中、たまたま立ち寄った画廊で出会った一枚の絵に魅了された私。
しばらく呆然とその絵を眺めていると、画廊の中からひとりの年配のご婦人が出てきた。
「いかがです。この絵、お気に召しました?」
と話しかけてくる。
「いや、このブルーはなんというか・・・その・・」
と、うまく言葉にならない。
「あまりに素晴らしいので、思わず身体が固まってしまいました。」
とようやく言葉をつなげる。
「このブルー、すごくきれいでしょう?どうですか、自分のものになさいません?」
といきなり勧めてくる。
「え?!?」と私がしばし戸惑っていると、
「私はこの画廊のオーナーですの。」
と名刺を差し出してきた。
「あ、はあ・・・」と受け取ったものの、どうしていいかわからない。
もちろん気に入ったとはいえ、購入するなど考えてもいない。
すると、そのご婦人は言葉をつづけた。
「この絵はナターシャ・バーンズという南アフリカの女性画家のものですのよ。」
と彼女。
「あ、はあ。そうですか。」と私。
まあ、そう言われても、門外漢の私にとってまるで知らない世界の話なので何と答えようもない。
そうすると彼女は、この画家は近年結構人気があること、入荷してもすぐに売れてしまうこと、広尾近辺のご婦人方には何枚も購入した人がいることなどいろいろと教えてくれた。
そんな話を聞きながら、
『結構デカいこんな絵を、何枚も飾るスペースがある大きな家をこの近辺で持っているなんて、どれだけ金持ちなんだ!』
といらんことが頭を駆け巡る。
「いかがですか。素敵な絵が一枚あるとおうちの雰囲気ががらりと変わりますよ。」
と、彼女が畳みかける。
『そりゃまあ、そうだろうな・・・』と心の中で思いつつ、いきなり目の前の大きな絵を自分のものにするのは、いかにもハードルが高い。
しかし、こっちもなんか言わなければと思い、
「廊下の向こう側のピンクの色使いの方もいいなと思ったんですが、こちらの絵のブルーは素晴らしいですね。」
と、素直な感想を伝える。
もともと青は好きな色なのだが、目の前のブルーは今まで見たこともない深みのある美しい色彩なのだ。
自分の心が完全に魅了されているのがわかる。
これもピンク系の一枚。感動のブルーはまた今度。
つづく