金銭問題で連絡してきたのは一回限り―お金が足りなくなったとき・・・―Ⅲ(おしまい)
私の3人の子供たちは、それぞれ大学進学を期に上京して暮らすことになった。
姉二人が社会人となり、末っ子の長男がまだ大学生だった頃、3人は住宅街の一軒家を借りて一緒に住んでいた。
そうやって暮らす中、ある時期、姉二人が続けて留学することになったのである。
それまで家賃は、3人で平等に分担して払っていたのだが、姉たちがいなくなったことで長男一人が負担するはめになった。
そうなったときの取り決めも特にしないまま、バタバタと留学してしまったため、しばらくの間、長男はそれまでと同額の仕送りの中から一人で家賃を払っていたのだが、とうとうにっちもさっちもいかなくなったらしい。
ある日、おずおずと連絡してきたのである。
珍しく向こうから困ったように電話してきた様子に、カミさんはすぐに事態を察したのだった。
「ああ、ごめんごめん、お金が足りなくなったんでしょう?お母さん、気がつかなかったわ。一人で家賃払っていたらそりゃあ足りないわよね。すぐに送金するね。」
ということで、そのあとすぐその分の送金をしたのである。
これが自分だったら、と考える。
おそらく、姉たちがいなくなる前から、親に連絡なりしてその分のお金の手配をするだろうな、と思う。
まあそれが普通の対応だろう。
長男は、ギリギリ足りなくなるまで連絡さえしかねていた。
人が良いというかボォーっとしているというか、私たちの若い頃に比べて、何ともゆったりとしている。
これが「ゆとり世代」というやつなのだろうか。
長男がお金のことで連絡してきたのは、この一回限りであった。
私の学生時代などに比べれば、圧倒的に少ない。
というより、家賃の件がなければその一回すらなかっただろう。
もちろん、お金は大事なので、ちゃんとした感覚は身につけておいて欲しいとは思う。
しかし、あまりガツガツしているのも、みっともないといえばみっともない。
長男の金銭に対する飄々とした感じは、まあそれはそれで好ましいとも思っている。
この先、家庭なり持って暮らしていくとなると、お金に関してシビアな場面も出てくることだろう。
そうなったとき、自分よりも伴侶や子供たちを優先して、いろいろな気配りができるような人間であって欲しい。
親父としては、あいつはきっとそうなるんじゃないかと思っている。
家族を大事にしろよ。
これは30年以上昔の私と娘。
おしまい