ステイタスであり、勝負をかけたい場所―東京での一日、極めて健康的な世界―Ⅶ

東京の街中を散策していて思うのは、商売の移り変わりの速さです。

私が東京にいた当時(30年以上昔になりますが・・・)、覚えのあった店舗のそのほとんどは姿を消し、異なる業態へと変わっています。

 

例えば表参道に面した表通りは、その大半が大手ブランドの旗艦店で占められており、中小の企業では出店が難しそうです。

その大手ブランドも出店退店を繰り返しているところを見ると、恒常的に利益を出すのはなかなかハードルが高いのでしょう。

 

もともと小資本のちょっとした特徴や個性を持った店舗は、その表通りから一本二本中に入った少し狭い通り沿いにあります。

裏通りとはいえ、多くの若い層にとっての憧れの地である青山、原宿エリアですので、出店者としてはステイタスであり、勝負をかけたい場所なのでしょう。

 

ただ、前述のようにそんな中で、何十年も長く続いている店は数えるほどしかありません。

特にアパレル関係のショップは、流行による入れ替わりが激しいようで、長く続いている事業は少ないようです。

 

そんな中、今回ふらりと立ち寄ったのが、青山通りから外苑西通りを六本木方面に100メートルほど入った右側にある「オイスター」というメンズのセレクトショップでした。

この店は、私がまだ東京にいた頃からあった店舗で、こういう業態にしては珍しく、当時とほぼ同じような、どちらかといえば地味な店構えでそのまま残っていました。

 

あの頃は、かなり高級店に見えていたので、入ったことも買い物をしたこともなかったのですが、その店構えが懐かしかったので、中に入ってみたのです。

店内はおそらくイタリアあたりから取り寄せたと思われる衣類が並べられており、まだ若い感じの男性が商品の整理に余念がなさそうな様子でした。

 

店内を少し見て歩いたあと、彼に声をかけました。

「ここは、随分昔から営業しているみたいですけど、どれくらいになるのですか?」

彼は手を止めて、こちらに向き直り

「私のおじが始めたのですが、もう45年くらいになります。」

「そうですか。昔東京に住んでいて、30年近く昔、田舎に引き上げたのですが、上京したとき、こうやって街を見て歩くとほとんどのお店が様変わりしているのに、ここはずーっとそのまま営業されているので、思わず立ち寄ってみました。」

と私。

すると彼は

「ありがとうございます。おかげさまで厳しい環境の中でもここまで続けることができました。途中、(イタリアンファッションの)ブームなどがあっても、無理に事業を広げたりしなかったのがよかったと思います。」

と、丁寧に彼が応えてくれます。

 

          ここは六本木ヒルズ下のスタバです。

つづく