胸倉をぐいと掴んでバチンバチンと往復ビンタ―あれは正義感?Y先生とシンクロする私の思い出―Ⅱ(一応おしまい)

昔通っていた中高一貫校にいたY先生。

いつも白衣を着て、髪は真っ白なオールバック、学者然としたその風貌は今でも忘れることができない。

 

さて、その学校に通うために、みんなが利用していた近くの市電の駅。

ある日の夕方、ちょうど帰宅時に、きちんと並んで電車を待っていた人の列に、近くの別の高校の不良っぽい学生が割り込んでしまった。

 

そこには学生だけでなく大人もいたのだが、ヘラヘラと割り込んだままでいる不良学生を誰も咎めるものはいない

このまま、このことは過ぎてしまうのかと思われた。

 

とそのとき、たまたまその列に並んでいたY先生が、つかつかとその不良学生の前に歩み寄るや、胸倉をぐいと掴んで、その顔に平手でバチンバチンと往復ビンタをくらわしたのである。

先生は胸倉を掴んだまま、無言でその学生を睨みつけた。

 

その不良学生は、ぶったまげたに違いないが、Y先生のあまりの眼光にすっかりひるんでしまった

手を緩めた先生から離れるや、コソコソと人混みのどこかへ消えてしまったらしい。

 

これがY先生の武勇伝である。

私はこの話をその場で見ていた同級生から口づてに聞いたのであるが、つくづく思った。

 『できれば見たかったなあ・・・・』

 

まあ、相手が不良学生とはいえ、今だったら結構大きな問題になりそうな話である。

Y先生は、普段学校で体罰を加えるような教師では全くなかったが、下手をすれば、学校間の問題として取り上げられかねない事件といえよう。

しかし、当時はそれで何のことはなく終わった。

 

それにしてもY先生、気骨あるお方だ。

小柄だった先生は、不良野郎の反撃を考えなかったのであろうか。

まあそれでも、相手になってやろうじゃないか、くらいの強い気持ちはあったのだろう。

 

私が中学生、もう50年以上昔の話である。

あの頃すでにY先生は、教師陣の中でもそこそこのお年だったことを考えれば、おそらく、大正の初めか明治生まれの人だったのだろうと思う。

 

今では、体罰云々は大きな問題になってしまう世の中だから、Y先生のような生き方はなかなか難しいのかも知れない。

でも、この話、ちょっとカッコイイな、と思うのは私だけではあるまい。

 

 

(一応)おしまい