おい、ちゃんと並べよ―あれは正義感?Y先生とシンクロする私の思い出―Ⅲ(おまけ)
市電を待つ人の列に平然と割り込み、素知らぬ顔をしていた不良高校生の胸倉をつかんでバシンバシンと往復ビンタをくらわせて、その高校生を退散させてしまったY先生。
今の世の中だとなかなか難しそうな行為ではあるが、まあ胸のすくような武勇伝である。
この話を思い出しながら、そういえば・・・と私の記憶によみがえってきたことがある。
あれは、カミさんとまだ結婚する前、原宿に出掛けたときのことであった。
はっきりとは覚えていないが、私たちはデートでもしたのであろうか、帰りの電車に乗るために、原宿の竹下口の改札のところで切符を買うために並んでいた。
といっても、並んでいたのは私だけで、カミさんの分と2枚買うために、ごった返す駅の券売機の列の中に立っていた。
ご存知の方はわかると思うが、原宿駅の竹下口は狭い。
その割には人の数は多いので、切符売り場には長い列ができていたのである。
すると、20代くらいの若者が、その列の前方に割り込んで並んだではないか。
私から、3人くらい前に割り込み、ヘラヘラとそしらぬ顔で並んでいる。
誰も咎める者はいない。
私は、その男の肩をポンポンと叩き、ちゃんと並べよ、と促した。
ギョッとしたような顔で私の方を見たが、その男は黙って列のうしろの方についたのである。
その後、私は切符を買って、列のそばで待っていたカミさんのところへと行った。
するとカミさんに
「よく、注意したわね。怖くなかったの? 私は、あなたがあんなことする人とは思っていなかったわ。」
と言われた。
「いや別に・・・」
と返事して、その話はそのままになった。
今思い出してみると、あれは何のことはなく、やってしまったような気がする。
勇気を奮い起こすとか、ドキドキするとかもなかった。
普通に
「おい、ちゃんと並べよ。」
と言っていたのである。
そのとき、Y先生のことが頭に浮かぶ、ということもなかった。
今回、Y先生のエピソードを思い出して、「そういえば俺も・・・」と、初めて2つの記憶が頭の中で結びついたのである。
つづく