たった一人で運命に抗っていたおじさん・・―「働かないおじさん」特集に見る日本のビジネス業界事情―Ⅳ
DMへの反応を受け、「千載一遇の営業チャンス!」と、勇んで出かけた大企業。
そこで見たものは・・・
まるで窓際族の集団墓地のように、どんよりと沈み込んだ一つの部署であった。
当時、私の会社はマーケティングリサーチを生業(なりわい)としており、企業が新しいプロジェクトなどを立ち上げる際に、その前さばきの市場調査などを請け負っていたのだ。
電話をかけてきたご本人と話をしたが、その部署にとてもそんなプロジェクトの案件などありそうもなかった。
話していて、すぐに『ここは仕事にはならないな。』と気がついたのである。
とはいえ、
『へぇー、こんな姥捨て山みたいな部署もK建設くらいの大会社になると実際にあるんだ・・』
と、もの珍しさに興味を惹かれたことを思い出す。
ただ、そこで印象的だったのは、私などには目もくれず、一人忙しそうにしていた人がいたことである。
彼だけは、新聞や雑誌ではなく何か書類のようなものに目を通し、秘書役の女性に、コピーとかいろいろと細かい指示を出していた。
それを受けた女性が、苦笑しながら
『こんなことしてても何の意味もないのに。まあ、しょうがないわね。』
といった表情で、指示に従っていたのも印象的だった。
おそらくその彼は、派閥間の争いか何かで出世街道から外れてしまい、大きな組織の中でそういった閑職に追いやられたことが受け入れられず、一人抵抗していたのであろう。
あえて忙しそうにしていなければ、その状況に耐えられなかったのかも知れない。
大企業だからこその、まるでちょっとしたドラマを見ているようなその光景は、今でも忘れられない。
当時でも、もうそこそこの年齢に見えたあの爺さん、その後どうなったのであろうか・・・
あのときは、私にはその人のことが滑稽というか哀れに思えた。
この人は過去の栄光にすがっているだけではないか、と思ったのである。
直属の女性社員たちも、指示に従いながらも、彼のことをどこか冷笑しているようにも見えた。
しかし、約30年経った今、私の感想は少し違っている。
あの死んだような目の仲間しかない部署にあって、彼一人だけは必死でその運命に抗っていた。
半沢直樹のようなドラマを見るにつけても、どんなに逆境にあっても人間諦めてはいけない。
常に牙を磨いて気力を失わずにいれば、やがてチャンスは巡ってくるかも知れないのだ。
ひょっとしたら、彼はその後千載一遇のタイミングを得て、復活のきっかけが掴めたかも知れないではないか。
大企業には大企業なりの事情がありまして・・・
つづく