若いときの旅がなければ、老いてからの物語がない・・―経営者が物語(ストーリー)を持つべき理由―Ⅰ

かなり昔のことになりますが、なにかの講演で次のような言葉を聞いたことがあります。
―若いときの旅がなければ、老いてからの物語がない―


私は、この言葉には強烈に心を動かされたことを思い出します。

この言葉があまりに強く印象に残ったため、その後何回か自分の講演やコラムなどのテーマに取り上げたほどです。


この短い言葉の中には、私たちが想像する以上に、深い意味が込められているような気がしています。

ここで、改めてこの言葉の言わんとする意味を考えてみたいと思います。


若いときの旅・・・これはすなわち、仕事の最前線で現役バリバリに働いていた頃のことを表わしている言葉とも取れます。

仕事上の体験、経験やキャリアをリアルタイムで積み重ねていたときのことです。


誰しも、がむしゃらに頑張ったこんな時代を経て、今に至っているのではないでしょうか。

ただその時点では、これらの体験はまだ「生もの」であり、とれたての食材のようなもので、そのままではそう簡単に他人の共感や理解を得られるものではありません。


老いてからの物語・・・この言葉だけですと、「老人の繰り言」「単なる昔話」的な捉え方になりそうですが、「若いときの旅・・」という言葉とペアになればまた意味が違って見えてきます。

それは先述の「まだ生ものの食材」でしかなかった仕事上の経験やキャリアが、時を経て熟成され吟味され、外に向かって伝えられるだけの形を持った「料理」に仕上がってきた、と解釈することもできるのではないでしょうか。


若いときはまだ生々しすぎて手をつけかねていた原材料も、『時間の経過』という熟成期間を経れば、人々に伝えられるだけの『物語』として生まれ変わるのです。

この『物語』即ち社長の持つ数々のストーリーやエピソードは、いつでも取り出し可能な「引き出し」にしまっておいて、必要とあらば披露できる状態にしておくことをお勧めします。

                 老いたバーテンダーは何を語るのか

つづく