コート、コート、コート・・・・コートについて思い出すことⅥ

「これならデザイン的にもカッコいいし、めったなことでは他人とカブるってこともないだろう。」

と選びに選んで買ったカメラマンコート。

デザイン的にも防寒という機能的にも申し分なかった。

 

冬休み、そのコートを着て田舎に帰省した私が、初詣でを兼ねて、両親や弟妹の家族全員で「都井の岬」まで行ったときである。

海岸の崖に架かっている狭い橋を渡ろうとしたとき、向こう側から全く同じコートを着た、同じ年くらいの若い男性がやってきたのだ。

 

一瞬目が合い、二人とも気まずそうに視線を外した。

東京のデパートで選びに選んで買ったコートにもかかわらず、こんな田舎(しかもよりによって「都井の岬」ですよ!)で他人とカブってしまったのだ。

向こうは同じコートをどこで買ったかは知らないが、気まずさに変わりはなかっただろう。

 

苦い思いですれ違い、その後、楽しかるべき初詣では、私にとってかなり微妙な心境になってしまったのである。

そのときの写真が、古いアルバムに残っているが、確かに微妙な表情で写っている。

 

これがよく見かけるステンカラーやトレンチコートだったら、全く同じものがカブっていたとしても「まあ、仕方がない・・」で済ませられるのだろうが、そうなりたくなくて選んだにもかかわらず、なんとカブってしまったのである。

しかもそれが、東京ではなく、日本でも最果ての地「都井の岬」でカブるとは、何たる神様のイジワル、運命のイタズラ・・・

 

この状況に目ざとく気づいた妹の笑うまいことか・・・・

「そんなに笑うことないだろう!」

と言いたくなるくらい、腹を抱えて笑ったのである。

よっぽど、私が苦々しい顔をしていたのだろう・・・・

 

これにはさらに後日談があって、同じコートの色違いを私は映画で見かけたのだ。

確か、極寒の北海道ロケかなんかで、菅原文太が着ていたのではないかと記憶している。

映画で取り上げられ、しかも、過酷なロケ地で使われるとは、やはりデザイン的にも機能的にもあのコートは間違いなかったのであろう・・が・・・

 

さて、そのカメラマンコートも今はもうない。

とっくの昔に手放してしまったのだろうが、よく覚えていない。

 

これがそのカメラマンコート。パーマなんかかけちゃって、カッコつけに余念がなかったんだろうなあ・・・

 

つづく