会社に入った一本の電話―ハッタリの効用?想定を超えたテーマは人を成長させる―Ⅰ
今でも
「ああ、俺たちあんなことやっていたなあ・・・」
と、思い出すことがある。
それは東京で起業して頑張っていた頃のことだ。
仲間数人とマーケティングリサーチ会社を立ち上げた私たちは、DMを出したり、コネで顧客を紹介してもらったりしては、上場企業を中心に一生懸命営業をかけていた。
DMの反応などは、当然のようにほとんどなかったが、めげずに出し続けていたのである。
そんな時、会社に一本の電話が入った。
電話の相手はなんとN総研だったのである。
受話器を持つ手に汗が滲む。
つばを飲み込み、一呼吸入れてから電話の相手と話をする。
かけてきたのはN総研の主任研究員の方だった。
一般の企業でいえば部長クラスの人である。
私たちが出したDMを見ての問い合わせだった。
「マーケティングが得意と書いてあるけど、どんなことができるの?」
と、まず聞かれた。
私は
「これまで多くの企業から振り出された新規事業或いは新商品などの市場調査を得意としております。」
とかなんとか答えたように覚えている。
「なんかそういった実績がわかる資料はあるかね?」
と聞かれた。
私が
「会社案内を作成しておりますので、お送りいたしましょうか?」
と言うと、
「ああそうだね。お願いするよ。」
との答えだった。
私は、
「それではすぐに郵送いたします。」
と返す。
すると
「そうだなあ・・郵便じゃ時間かかるから、その会社案内を今すぐFAXで送ってくんない?」
と言われた。
「仕事が早いわ!」
と、心の中で思いながら
「分かりました。早速お送りします。」
と答えたあと、冊子になっていた会社案内をバラバラにして1枚ずつFAXで送ったのである。
インターネットもHP(ホームページ)もメールも何もない時代の話である。
つづく