企業の原点となるようなエピソード―経営者が後継者に伝えるべきストーリーとは・・―Ⅲ(おしまい)
父は税務会計の仕事に誇りを持っていました。
その父の原点が、若い頃選ばれた県の代表だったのではないか、と思うのです。
考えてみれば、あれは父の中にあった一つのストーリーだったのではないでしょうか。
私は、父はこの出来事をきっかけに、税務の仕事に初めて自信を持つことができ、その後この分野で頑張って行こうと決意した出発点だったのではないか、と推測しました。
この話は父の晩年に聞いたということと、極めて印象的だったために、私は父の葬儀のときに、参列いただいた方たちに対して親族を代表してご挨拶をした際にも、父を象徴するエピソードとして紹介したのです。
今思えば、父はもっとこんな話をしてくれればよかったのになあ、と少し悔やまれます。
仕事の具体的なやり方、スタンスといったものは私なりの考えもあって、なかなか共有できなかったのですが、こういった父のストーリーであれば、もっと共感できたのに、と思うのです。
親子にもかかわらず、何故そうならなかったのでしょうか。
それはおそらく、こういう話をするのが苦手な人だったからだろう、と思います。
仕事のやり方、といった具体的な話であれば、必要なとき、その都度口に出して指示できます。
しかし、自分のストーリーをじっくり話すとなると、どういうシチュエーションのとき切り出すか、というのは、なかなかきっかけが掴みにくいのかもしれません。
しかし、父の葬儀のときに、私があえて父のストーリーと思ったエピソードを取り上げたのは、それが重要と判断したからにほかなりません。
日進月歩のこの世界で、ビジネスの方法論的なものを新旧で共有するのは難しいかも知れませんが、その人や企業の原点となるようなエピソードを、共感できるストーリーとしてお互いの心の中に持つのは悪いことではありません。
どんな企業にもあるはずのストーリー。
これを発掘してみませんか。
おしまい