かれこれ40年の時空を超えて―やっとの思いで再会したあの一品は意外にも・・―(前編)

長年探し続けているPコート

これまで着るものに関してはいろいろと書いてきた。中でもコートについては、一着一着の記憶が割とはっきり残っていたため、かなり膨大な量を書き綴ってきている。これはコートだから追っかけ切った、ということもある。重衣料としてはジャケットやスーツもあるが、それらとて、これまで身につけたもののすべての記憶を追いかけきれるものではない。

コートに関しては単発で書いたものもあれば、一連の私的ヒストリーシリーズとして長文をのっけたこともある。

そんな中、何回か触れたのはPコートに関してであった。Pコートはそれ自体が好きということもあるが、どうしてもそのブランド名が思い出せないまま長年探しているものがあった。「どなたかご存知の方いらっしゃいませんか?」とブログやコラムの中で尋ねてみたこともある。

また、現実の会話の中でも服飾に詳しそうな人に聞いたこともあった。しかし、残念ながら「ああそれって○○ですよね。」と、明快な答えをくださった方は誰もいなかったのである。

私が聞いたのは「1980年代から90年代にかけて、アメリカの「ショット」と並んで有名だったメイドインフランスのPコートで、フランス海軍御用達らしいんだけど。」という内容だった。これくらいヒントを並べて聞かれれば、一人くらい「ああ、フランスの○○ね。そういえばそんなのあったな。」くらい答えてくれる人がいそうなものだが、誰も覚えていなかったのである。まあ、覚えていない、というよりもそんなディープなところまでこだわっている人など世の中にいないよ、ということだったのかも知れないが。

 

検索してもわからない

そのフランス製のPコートは、アメリカのショットのものより、落ちついた見た目のやや大人のコートという感じだった。私は、1980年代90年代は東京で暮らしていて、このPコートが欲しかったのだが、当時、ショットのものより高額で手が出なかったのである。

その後、「今だったら買えるかな。」と思い、探そうとしたときには、もうそのブランド名を忘れていた。何とか思い出そうと、脳細胞のディープなところまで引っ掻き回して探ろうとしたのだがどうしても出てこない。というわけで、冒頭書いたように、いろんな人に聞きまくったりしたにもかかわらずわからずじまいだったのである。

グーグルで検索したのは言うもでもない。こういう検策は大抵ヒットするのだが、「フランス製のPコート」はいろいろなタイプが表示されるものの、どれも私が探しているそれではなかった。逆に「この程度のことでもグーグルにわからないこともあるんだ。」

と少し驚いた。

途中、Pコートは他のブランドのものを購入したので、別にどうしてもそれがなければ、ということでもなかった。

 

チャットGPTでようやく解明

さて、そうこうしているうちに近年世の中に登場したのが「チャットGPT」である。「グーグルではダメだったけれど、ひよっとしてこいつだったら。」と、先述と同じように「メイドインフランスの・・・」といった文言を打ち込んで調べてみたら、たちどころに長年の疑問が氷解したのである。丁寧な文章でブランド名やその背景などを教えてくれた。

で、そのPコートブランドというのは、なんと「セントジェームズ」だったのである。「セントジェームズ」はご存知の方も多いと思うが、横じまのバスクシャツで有名なブランドである。各デパートには必ず置いてあるし、セレクトショップでも取り扱っているところは多い。東京の白金台には専門ショップもあって、以前訪れたこともある。ただ、近年、Pコートのような重衣料は取り扱っていないのか、売り場で見たことはなかった。

 

とうとう購入してしまった

とにかく「そうかそうか、よく知っている名前だったのにどうして思い出せなかったんだろう?」と、己の記憶力の曖昧さにガックリきながらも「ところであのPコートはまだ売っているんだろうか?買えるんだろうか?」との疑問が湧く。あったとしても、「それがすべて古着だったらちょっと嫌だな。」と思いながらインターネットで調べてみると、どうやらメーカーの方では今はもう作っていないらしいことがわかった。

そこで、さらに調べていくと、並行輸入品専門のネットショップで新古品のような形で販売されていた。おそらく、かなり以前に輸入したものなのだろう。

とはいえ、どうも数は少ない。私みたいな変なオールドファンがそういるとも思えないので、焦って買うことはないか、とも思ったが、サイズなど適当なものをもし買い損ねたら悔しい。というわけで、とうとう一枚購入してしまった。

しかもその価格は30年以上昔、東京で手が出なかった時の値段よりも安くなっていたのである。といっても、最後の一枚、バーゲン価格ということで、定価はやはり東京時代よりは高くなっていた。

そんな経緯を経て、メイドインフランス、フランス海軍御用達、分厚いメルト生地ウール100%のPコートは、約40年近い時空を超えて私の手元に届いたのである。届いたのは真夏の季節だったので、こいつに袖を通すまでには、まだ数カ月かかるな、と思いながら試着してみた。

そうしたら驚くべきことに気づかされたのである。

これが「セントジェームズ」のPコート

よくまあ、こんな個体が残っていました。

 

つづく