気の弱い人なら卒倒しそうな場面―一輪車はクソの山に登る・・過酷な労働につぶされそうになった青春の日々―Ⅸ

デジタル系のトラブルや設定において、問題解決の力の低さを露呈している私ではあるが、今後はその辺の対応能力も強化していかなくては、というのが一つの大きなテーマである。

 

さて、北海道の一件から話が随分それてしまった。

あの約50日間にはいろんなことがギュッと詰まっていたと思うが、中でも衝撃的だったのは、牛の出産に立ち会ったことだった。

 

働き始めて、毎朝4時台に起こされるのが苦痛でしょうがなかった私。

ところが、その日はさらに早く起こされた。

一日の疲れにぐったりなってようやく寝付いた、と思った頃にいきなり叩き起こされたのである。

 

「牛が産気づいたから牛舎へ来い。」

といわれ、眠い目をこすりながら作業着に着替え、牛舎へと向かった。

その産気づいた牝牛(酪農家には牝牛しかいないのだが・・)は、藁の上に横たわって苦しそうに息をしていた。

 

そこだけ、煌々と灯りがついており、すでに獣医さんや仲間の酪農家も数人到着していた。

みんなで、どんな風にお産をさせるか話し合っている。

どうやら、ちょっと厄介なお産になるらしい、ということが素人の私にも感じられた。

 

牛の息遣いがさらに激しくなったころ、獣医さんが牛の産道に手を突っ込んだ。

そうするとなにかドロリとした半透明の塊が出てきて、そのあと、小さな牛の足とみられる物体が引き出される。

 

そこまででも相当ショッキングな光景なのに、今度はその産道からわずかに覗いている子牛の足と思われる部分に、予め用意してあった鎖を巻き付けたのである。

そう、ロープとかではなく、あの鉄でできた鎖である。

 

そして、青ざめた顔(おそらく・・)であっけにとられている私に、牧場主が

「おい、一緒に引っ張れ。」

と声をかけた。

そこで私も、その巻きつけられた鎖を渾身の力を込めて引っ張った。

 

すると、まだ、羊水にまみれてヌルヌル状態の子牛がスルリと出てきたのである。

また、同時に胎盤と思しき物体もドロッと出てきた。

もちろんそれだけではなく、赤い血もあちこちに付着している。

 

こうやって、気の弱い人なら卒倒しそうな場面に、私は付き合ったのである。

まあ、これは普通の人なら一生に一回あるかないかのかなり貴重な体験だったといえよう。

牝牛は何かと大変!

 

つづく