電卓と決算表

どうして正しい記帳が必要なのか

毎日、正しく帳簿をつける(記帳する)ことは、大変かもしれません。
しかし、毎日きちんと記帳をし、その会計帳簿をもとに作成された決算書や税務申告書は、自社の信用を高めます。

spade毎日の記帳は自社経営のために行う

 毎日の記帳は、税金の申告の目的だけで行うものではありません。本来は、自社の経営実績を正しく知るために行うものです。というのも、正しい記帳に裏付けられた会計帳簿は、正確な経営データによる経営判断の基礎となるからです。
 例えば次のようなことに心当たりはないでしょうか。

  • 現在、どれだけ利益があるかがわからない
  • 現金、預金、借入金などの資産、負債がいくらあるかがわからない。
  • 頭の中で描いていた業績と実際の数値がかけ離れている。
  • 数か月まとめて記帳するため、取引の漏れや間違いが多い。
  • 金融機関からの評価が低いようだ。

 これらの原因の一つに、日々の記帳がしっかりできていないことがあります。

 S社のケース
資金不足になる理由がよくわからない

 化粧品販売業を営むS社長は、創業以来、取引のある銀行に自社ビル建築のための融資を依頼したところ、有力取引先の保証を付けることなど様々な厳しい融資条件を求められました。長い付き合いなのに、金融機関からの評価が思った以上に低いことがS社長にはショックでした。
 また、S社長には売上はあがっているのに資金不足になるということも悩みでした。

「なぜ資金が足りないのか。その原因がわからないまま経営をしたくない」とS社長は思いました。
 銀行に相談したところ、会計事務所を紹介され、その事務所からは、「正しい経営の実態を知りたいのであれば、まずは、毎日、正しく記帳することからはじめましょう」と言われました。

 それまでS社は、会計帳簿の記帳はアウトソーイングでした。金融機関への決算書の提出も形式的なものと考えていたのです。S社長には、「記帳によって売上や利益が伸びるわけでもなく、業務量が増えるだけではないか」との思いがあったのですが、会計事務所の指導のもと、経理担当者を置いて、毎日の記帳からはじめました。

 まず、取り組んだのは、現金管理です。毎日の現金の入金と出金を管理し、業務終了後には、金庫に残った現金を金種別に集計し、帳簿上の残高と照合し、金種別残高表を作成して保存するようにしています。

 これが習慣化するまで6か月ほどかかりましたが、毎日、現金残高を合わせることで、経費の支払いの記帳漏れなどが多いことがわかりました。
 現金管理以上に、証憑書類の整理、保存は大変だったようですが、だんだんできるようになってくると、これまで気付かなかったことも見えてきました。
 例えば、納品書や請求書、領収書などの整理、保存ができていなかったときは、得意先元帳や仕入先元帳等への記帳漏れなどが多く、回収漏れがあったり、支払予定日に資金がなくて慌てたこともあったのですが、そのうなことが少なくなったようです。また、交際費なども結構使っていたことも明らかになりました。

 最近では、月次決算も組めるようになり、これまで気になっていた資金不足の原因なども、経営データからわかるようになってきました。まだまだ十分な記帳体制とはいえませんが、S社長は、その大切さを実感しつつあるようです。

F社のケース
売上の大きさばかりに目が行き過ぎた

 繊維業を経営するF社長は、売上や会社規模を大きくすることばかりを考えていました。会社を維持するのにどれだけ利益が必要なのかがわからないため、無理をして利益の低い仕事ばかりを受け、会社が疲弊してしまったそうです。
 その反省から、日々、記帳された会計データと照らし合わせて、経営上の判断に活かすことで、利益の低い仕事をなるべく避けることができるようになりました。

 現在、F社長は、予算を策定し、事業を続けていくために必要な売上と粗利益をきちんと把握して、そのラインを目標に頑張っています。さらに、予算書、決算書だけでなく、毎月の一覧式総勘定元帳と月例経営分析表をコピーして金融機関と主要取引先に提出しています。

spade正しい決算は金融機関からも評価される

 中小企業は、取引のある金融機関に定期的、あるいは融資に際して、決算書を提示しています。金融機関は、その決算書等をチェックして、各勘定科目の数値は正確か、企業の実態を表しているか、粉飾等がなされていないか、などを確認しています。
 日々、きちんと記帳された会計帳簿に基づいた試算表や決算書であれば、それだけ高い評価につながっていきます。