どのように前に進むか・・・―現場に考えさせる、決めさせることの難しさ―Ⅶ
現場の裁量権が、日本企業に比べて格段に自由なドイツ企業に転職した隅田貫氏(メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー)は、当初、戸惑いもあったものの、慣れるにしたがって「こんなに仕事をやりやすい環境はないな」と思うようになります。
また、PDCAで回していく目標管理の緩さが気になった氏はその疑問を上司にぶつけます。
― (ある日隅田氏は)尊敬するドイツ人の上司(私を採用してくれた方)に思い切って質問しました。
「目標管理がすこし緩いのではありませんか。もっと定期的に進捗をチェックしていかないと、目標必達は難しいのではありませんか?」
そのときの上司の答えは、今でも忘れられません。―
隅田氏の言う「目標管理」は、PDCAを回すこと、即ち、プラン(P)目標設定(計画)→ドゥ(D)業務遂行(行動)→チェック(C)進捗状況確認(検証)→アクション(A)再度遂行(改善)です。
この最高の成功事例はトヨタといわれており、日本の多くの企業で採用されている事業運営手法の一つです。
その、極めてスタンダードな手法について質問した隅田氏に返ってきた上司の答えとはどんなものだったのでしょうか。
―「スミタさん、あなたの言われることはよくわかります。
私も日本で10年近く仕事をした経験がありますから。
私の地位、立場からすれば、そのようなことはいとも簡単です。
今からでも、すぐにできます。
でも、私はそのような圧力をかけたり管理をしたりは決してしません。
なぜなら、たちまち『できない理由』が数えきれないほど上がってくるだけだからです。
私が知りたいのは、どのように前に進むかであって、前に進めない理由ではありません。
そのような圧力では社員の士気は上がりません」―
ウーム・・・・このドイツ人上司の答えには驚かされます。
まさに日本企業で普通に行なわれている「目標管理」について、真正面から否定している見解になるからです。
それどころか、こういった「目標管理」さえまだままならない日本の地方の中小企業に、それをなんとか普及させようとしている私の事務所においては、衝撃的な答えというしかありません。
確かに、現場の部下ならずとも、経営者自身から「『できない理由』が数えきれないほど上がってくる」中小企業においては、この上司が言うように、考え方を変えていくしかないのかも知れないな、と思います。
つづく