今日は俺が判断するよ―現場に考えさせる、決めさせることの難しさ―Ⅳ

ドイツ企業における「現場の自由度」の高さに、驚かされた隅田貫氏(メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー)は、今さらながら、日本企業の決断や判断に時間を要することのデメリットを強く感じているようです。

「現場の裁量権」について、隅田氏はドイツ企業の現実を目の当たりにし、さらにその思いを強くしたのです。

 

その具体的な事例を、隅田氏は次のような出来事を通じて伝えておられます。

―(日本企業のビジネス環境から)メッツラー社に入社した途端、自分でかなりの部分を決断できる状況に変わりました。

 最初はプレッシャーも感じましたし、躊躇しました。

しかし、徐々に慣れていくと「こんなに仕事をやりやすい環境はないな」と思うようになったのです。

 同僚は上司が不在だったときに、「今日は俺が判断するよ」と言い、実際に顧客から連絡が来たときも、「それはこうしましょう」と話を進めていました。

日本だったら、「今日は上司が不在なので、相談をして明日以降にご連絡いたします」と伝えることが多い場面です。―

 

この「今日は俺が判断するよ。」というのは、日本企業のビジネス文化に慣れ親しんだ人にとってはかなり驚愕のセリフではないでしょうか。

セリフどころか、そんなこと考えたこともない、というのが大半の日本のビジネスマンの心境だと思います。

 

隅田氏が言われるように、これは当初相当躊躇してしまう環境の変化ではないでしょうか。

しかしまた、慣れてしまえば「こんなに仕事をやりやすい環境はないな」と思うのも当然といえば当然のことと思います。

 

しかし私は、ここで一つの問題が起きるような気がします。

それは、上司に判断を任せる、というか、判断をしてはいけない、という職場環境が長く続き過ぎた場合、果たして隅田氏のように「こんなに仕事をやりやすい環境はないな」と思えるようになるか、ということです。

 

私が関与している地方の中小企業の場合、単に上司というよりオーナー経営者であるトップしか決裁権や裁量権を持たないケースも多く見られます。

そうなると、上記のような、部下が何の判断もしないできないという職場環境が何代にもわたって当たり前という会社も珍しくありません。

 

国全体の経済が上向きの時代は、上記のようなワンマン経営スタイルでもよかったのかも知れませんが、現在のような経済環境においては、次第に頭打ちになってきています。

私の見ている限り、日本の中小企業の大きな課題でもあります。

 

 

つづく