「人違い・・・ですよね?」―魅惑的な出会い、を喜ぶ―
先日、デパートの立体駐車場に車を入れようとしていたときの出来事である。
6階建ての駐車場ビルは、下の階は空いていなくて、私はグルグルと上の階を目指していた。
ゆっくりと車を進めながら、どこかあいているスペースはないものか、とキョロキョロしていたのである。
そうすると、向こうから背のスラリとしたご婦人が歩いてくる。
マスクをしているが、お美しい方であることは近づいてくるにしたがってはっきりと確認できた。
そこで私は、ハッと気がついた。
「なんだ!顧客の社長夫人である○○子さんじゃないか。」
その方が、車の横を通り抜けようとする直前に、私は軽くクラクションを鳴らした。
彼女はハッとしたようにこちらを見る。
私と真正面から目があった。
私もマスクをしているので、口ごもるように「あのう・・・・」と、言葉を発した。
向こうはその間じっと私の方を見ている。
お互いが凝視したまま、数秒の時間が流れた。
すると彼女が口を開いた。
「人違い・・・ですよね?」
一瞬間があって、私も
「そ、そうみたいですね。失礼しました。」
彼女がにっこり笑うのがマスク越しにもわかった。
お互い軽く会釈して、彼女は歩き出し、私は車を進めた。
人気のない駐車場で、見知らぬ男にクラクションを鳴らされ、声をかけられる。
普通だったら、思いっきり不信感を抱くことだろう。
にもかかわらず、彼女はにっこり笑って「人違いですよね。」と、余裕で言葉を私に返した。
なかなかこうはいかない。
素敵な人だと思った。
素敵な彼女に乾杯!!