檸檬―ほろ苦き青春の思ひ出―Ⅰ
さだまさしの歌に「檸檬」という曲がある。
人はときに、その苦き思い出と重なって、尋常な気持ちでは聞けない歌がある・・・と、すれば、私にとって「檸檬」はまさにその歌である。
先日、いつものように車を運転していたら、FM放送のラジオからこの曲が流れた。
しばらくの間、この曲のことなどすっかり忘れていた私は、ハッと我に返った。
普段は、軽妙なしゃべりしかしないパーソナリティーの男性が、ポツリと
「これはいい曲ですね。」
といった。
一瞬
「こいつにも、この曲にまつわるなにか心に刺さるような辛い経験でもあるのだろうか?」
との思いが頭をよぎる。
私にはある。
この曲の歌詞に出てくる御茶ノ水界隈は私が大学の4年間を過ごした街だ。
なにかに打ち込むわけでもなく、怠惰な学生生活だったと思う。
が、卒業までの後半、私はある恋愛に自らの全エネルギーをつぎ込んだ。
エネルギーをつぎ込んだ、といっても、フラれた事実が受け入れられずに七転八倒した、というだけの話である。
ただ、あのときは何かに取り憑かれたかのように、そのことだけを考えながら、ふらふらとあの街界隈を漂っていたことを思い出す。
「檸檬」は、その色彩が鮮やかに目に浮かぶ1番の歌詞が秀逸である。
―君は陽溜りの中へ
盗んだ 檸檬細い手でかざす
それを暫くみつめた後で
きれいねと云った後で齧る
指のすきまから蒼い空に
金糸雀(カナリア)色の風が舞うー
私の目には、まるでそこにいるかのように、東京の蒼い空と檸檬の鮮やかな黄色が投影される。
しかし、本当に心にぐさりと刺さるのは2番の歌詞である。
聖橋と東京の蒼い空
つづく