「伝統」は革新へ向かう貴重な基礎―挑戦者は常にアゲンストの風にさらされる― Ⅱ
まず、「伝統」との戦いです。
もちろん桜井社長も「伝統」が悪いと言っておられるのではありません。
「伝統」は大切なものであり、日本酒造りにも必要不可欠な要素ではあります。
しかし「伝統なのだから・・・」という理由で、新しい考え方や試みをすべて排除するという姿勢に桜井社長は疑問を呈しておられるのです。
それは往々にして「伝統」を守るというよりも、それによって形成されている職人たちや業界といった周辺の世界を守っているということになりかねないからです。
新しい技術や製法を導入するということは、当然それによって破壊される世界が出てきます。
これまでの世界観を守りたい人たちにとっては、それは直ちに敵対行為として認識され、反発の対象となります。
本来は「伝統」を基本的には守りつつも、その時代時代に要請される、変えていくべき要素については、常に適切に対応していかなければならないのですが、現実世界の動きはなかなかそうなりません。
したがって、桜井社長のように「当たり前」と思えることにチャレンジする人に対しては、どうしても風当たりが強くなるのです。
桜井社長が面白いことを言っておられました。
日本酒の製造方がほぼ完成したのは奈良時代だそうです。
当時の文献が残っていたので、そのまんまの製法で忠実に造ってみた人がいたらしいのですが、完成した日本酒には変な色がついており、味もとても飲めたものではなかったとのことでした。
つまり、「伝統」と言っても時代に応じて微妙に変化してきており、長い年月を経た結果、昔ものとは似ても似つかないものになる、ということなのです。
「伝統はかたくなに守るものではなく、時代の変化に合わせるための基礎になる貴重な存在である。」
と、桜井社長は言っておられました。
つづく