サザエさんに見る日本社会の変化―今も残っているのか向こう3軒両隣的感覚―Ⅰ
4コマ漫画のサザエさんに印象的に覚えている作品がある。
作者の長谷川町子さんが亡くなってもう何十年も経つので、その漫画も随分昔の作品である。
それは、一コマ目、サザエさん一家がどこかお出かけする前に、隣の老夫婦の家に声をかけるシーンから始まる。
サザエさんが
「すみません。みんなでお出かけするので留守中よろしくお願いします。」
と頼む。
声をかけられた隣のご主人は
「ああ、行ってらっしゃい。」
と快く引き受ける。
すると、次のコマで奥さんが
「あなた、どうしてうちも出かけるって言わなかったのよ。昔からはっきりものの言えない人なんだから。」
と、怒られる。
それに対してご主人は
「はっきりものが言えていれば、今こうしていないわい。」
と答えるのだ。
奥さんはプンプン怒って一人で出かけてしまう。
他愛もないといえば他愛もない話だが、ここから学ぶものが幾つかあるな、と私は思った。
まず、ほんわかとのどかな日常を描くことの多かったサザエさんにしては、結構シビアな話である。
隣のご主人のセリフには暗に
「俺がはっきりものの言える男だったら、こんな年になるまでお前といることはなかっただろうに・・」
という、隠れたメッセージが含まれている。
他人事ではないよなーと共感する世の男どもも結構いたのではないだろうか。
勝気な奥さんの前では、言いたいことも言えない気の弱いご主人。
人の良さが仇(あだ)となった人生、と言えなくもない。
つづく