私の少し困った原点―申告業務だけで忙しかった税理士業―Ⅳ
自己申告制度といっても、簿記会計や税法の知識のない素人が申告書を作成しても間違いだらけのものになることは避けられない。
事業が拡大してきたり法人化することで、従業員の数が増えてきたり取引が複雑になればなおのことである。
まずはここのところで税理士は頼りになる存在だったのだ。
税務申告は、原則1年に1回だから、人口が増え続け比例するように事業所の数が増加していた時代は、この1年分の数字を整理して決算を組み、申告書を作成するだけでも随分忙しかったに違いない。
さすがに今はここの部分(税務申告)だけが税理士の仕事と心得ている人は少ないと思うが、この時代のDNAがまだ色濃く残っていることは確かである。
というのは、今もここの処理の仕事に最も力点を置いてそのほかの部分についてはあまり積極的ではない税理士事務所も結構多いからである。
私が新人時代にネガティブな洗礼を受けたのは、この申告のみを請け負う業務が仕事の中心だった時代の顧客の感想だったのかも知れない。
その後、月々のチェック業務までを含むパートナーとしてのビジネスモデルに代わっていくちょうど過渡期だったのだろう。
当時日本は、高度経済成長時代で、経営者は経営について思い悩むというよりも
「利益が出ていることはわかっているのだから、いかに税金を安くで済ませるか。」
が大きな課題だったのである。
つまり税理士は、経営のパートナーというよりは税金対策を含む税務申告代理業だったことになる。
つづく