恋をしましょう・・・?(ゴールデン街異聞)Ⅱ

するとそ奴は、子供の話をし始めた。

どうやら5歳になった息子が可愛いらしい。(この男の見た目年齢からすると子供が小さすぎるが・・・はて?と、思ったが、話しかけると面倒なことになりそうなので黙っていた。)

携帯画面の写真をホラホラとママさんに見せている。

 

まあ、こういった酒場というものは、普通カミさんや子供といった日常の憂さを忘れるためにやってくるのだ。

望まれもしないのに、幼い子供の写真ホラホラ、は、ルール上最悪に近いご法度である。

 

その辺の了解事項も平気でバリバリと破ってくるこの男に、私も辟易しそうになっていたら、今度はこともあろうに

「恋っていいよね。皆さん、恋をしましょう。恋を。」

と、突然とんでもないことを言い始めた。

 

「僕は今恋をしてるんだ。うふふ」

・・・ムムッ、気持ち悪いぞ、お前!さすがに返す言葉も見つからない。

恋って面(つら)じゃないのは先刻承知していたが、もうこうなるとまともに見る気にもなれない。

 

「ああ、そう。よかったね。勝手にすれば。」

ママさんはすでに客扱いしていない。

この店は昔から変わった客が多かったが、こんな気持ち悪いのはさすがに初めてだぞ。

 

つづく