モハメド・アリの心情Ⅱ
そしてとうとう試合当日はやってきた。
ここで私がよくわからないのは、アリが4オンスという極めて薄いグローブをつけたことである。
こんな薄いグローブでヘビー級ボクサーがまともに殴ったら相手は命を失いかねない。
アリは、迷った末
「いくら自分が本気になれないからと言って、無様な負け方をするわけにはいかない。
勝利を確実なものにするには4オンスのグローブで行くか。」
と、考えたのではないか。
しかし一方で
「この試合、相手を叩きのめしたところで自分にとって何のプライドも満足させることにならない。
自分はボクシングヘビー級の世界チャンピオンという頂点を極めている。
この試合に勝ったとしてもそれ以上のステイタスが手に入るわけではない。
何で、これがお遊びのショーじゃなかったんだ、まったく!」
と、悔やんだのではないだろうか。
ところが実際に試合が始まって、パンチを当ててみたアリは4オンスで殴ることの恐ろしさに改めて気づいたのではないか。
アントニオ猪木は試合後のインタビューの中で
「一発目に額にもらったジャブはすごい衝撃で、あくる日たんこぶになっていた。」
と、話していた。
つづく