伝統の破壊と再生―日本酒の挑戦―Ⅺ(おしまい)
今回取り上げた日本酒業界に於ける『獺祭』の挑戦を通じて、私は住宅建築と少し似ているな、と思った。
住宅の建築は、従来地域の大工さんに任されてきた。
大工の棟梁とそのお弟子さんたちの世界だったのである。
そこに住宅メーカーという業界が新たに出現した。
職人の世界だった住宅建築を工業製品へと変貌させたのだ。
バラつきのある職人の世界と違い、メーカー製品は品質が一定している。
また、その品質を常に高度に磨いてきた。
規格ものという限界はあるものの、多くの支持を得て住宅メーカーは大きな産業として発達したのである。
『獺祭』も日本酒を従来の職人の世界から、高品質の工業製品へと変貌させたのだ。
とはいえ、住宅と違い日本酒は嗜好品の一つなので、同じような産業構造まで発展するとは思えない。
業界に一石を投じたといっても、独自のポジションでこれからも進んでいくことだろう。
インタビューの最後に桜井氏は次のように述べている。
― 「この状況に慢心するつもりはありません。大切なことは挑戦すること。守りに入れば、お客様は離れてしまう。チャレンジを続けている間は、お客様はついてきてくださると思っています。「いい酒」を造って、世界中の人たちに日本酒のよさを訴えたいですね。」―
『獺祭』の挑戦をこれからも見守りたい。
おしまい