伝統の破壊と再生―日本酒の挑戦―Ⅲ
桜井氏は父上との関係を修復できぬまま、父上は亡くなってしまった。
これはある意味不幸なことではあるが、自社の改革について後戻りできないという覚悟を促すきっかけにもなったのであろう。
― 旭酒造は岩国市内に4つある酒蔵のなかでは4番手で、酒屋では大幅な値引き販売が常態化しており、経営状況は惨憺たるものだった。
そして最大の問題は「値引 き」を疑わない風土だったのである。
死ぬ前に、やれることをやってみよう。
目の前の常識を疑い、新しい挑戦をしてみよう。
そう考えて挑戦したのが「獺祭」だったのである。―
現代の経営に於ける大きな壁の一つに「安売り」をどうやって克服するかという課題がある。
デフレが長く続いた日本では、この旭酒造に限らず「安売り」が半ば常態化している企業が多い。
特に旭酒造のように下位につけていたり、商品力に自信を持てない場合は、値引き以外に販売促進の手法を思いつかなくなるという悪しき傾向が出てくるのである。
この「安売り」の恐ろしいところは、それが一定期間続くと、記事にもあるようにそれを疑わなくなるという点にある。
売るためにほかの努力をするという発想が極端に失われてしまう、という怖い副作用があるのだ。
つづく