イスタンブール一人ぼっち、おまけ―危機的状況プラスその他いろいろ詳細―(後編)
ラテン系の運ちゃんたち
乗りかえ便の飛行機に乗り遅れて、たった一人イスタンブール空港に取り残された私。東京の旅行代理店担当の女性と連絡を取り合い、四苦八苦の末どうにかチケットを手に入れ、無事ポルト行きの飛行機に乗ったのだった。
こうしてなんとか、ポルトガルへ向かうことができたものの、当初の目的地はリスボンだった。それをポルトへ変更したので、羽田で預けたトランクはどうなるのだろう、と心配だった。
ところが、どういうシステムなのか、預けた荷物はちゃんと搭乗した人間にくっついてくるようになっていた。それでもポルトの飛行場では、無事自分のトランクが出てくるものか、ちょっとハラハラしたのだがちゃんとついてきていた。
さて、ここからは、何とかしてホテルまでは、自分で交通手段の手配をして向かわなければならない。事前に、タクシーを使うのが公共交通機関を調べて乗るより楽でいいのではないか、と聞いていたのでタクシー乗り場を探す。
空港の前には、客待ちのタクシーの列ができていた。ラテン系と思しき、陽気そうな年配のおっさん運転手たちが客を待っている。
その先頭にいた運ちゃんにパンフレットに印刷されたホテルの名前を見せながら
「ここに行きたいのだがわかるか?」
と意思表示をすると、しばらく見たあと
「うーん、俺はよく知らねえなあ。後ろの運ちゃんに聞いてみる。」
と、次に並んでいたさらに年配の運転手にホテルの名前を見せていた。
すると、その年配運転手は
「OK,OKここだったら知ってるよ。」
てな感じで、私のトランクを積み込む。
私は
『なんか、テキトーに見えるけどこいつ大丈夫かな??』
と心配しつつ、タクシーに乗り込んで出発した。
え、またトラブルかよ・・
『やれやれ、これで無事ホテルに着いたら一安心。』
と思っていた矢先、くだんの年配運転手は、突然路肩に車を止めた。そうして彼は携帯で、どうも会社の方となにやら話ししているようだった。結構その話が長いので、どうなってるんだろう?と心配していたら、今度は私の携帯が鳴った。
出ると、添乗員さんからの電話だった。向こうもすでにポルトガル国内に着いていて、連絡をくれたのである。
「海江田さん、今どこにいらっしゃいます?」
と聞かれたので、無事ポルトに着いたこと、だけどタクシーが止まっちゃってどうなっているのか訳が分からないことなど伝えた。
すると、添乗員さんが運転手に電話を代わってくれと言うので、電話を代わるとこれも結構長く話している。ようやく電話を返してもらい、事情を聴くと、どうやらタクシーのメーターが壊れて料金が表示されないのでいったん空港へ引き返して、別の車に乗り換えてもらう、と言っていたらしい。
というわけでぐるっと回って空港に引き返す。
『全くもう、今日はトラブル続きだよなあ。無事ホテルまで行き着くんかいな・・』
と心の中でぼやく。この分のタクシー料金も取られるのかな?と、心配したのだが、さすがにそれはなかった。
またタクシーを乗り換えていよいよホテルに向かった。空港からかなり遠かったものの、何とか無事にホテルに着くことができた。
皆さん知らないんですけど
ホテルでは、事前に手配をしてもらっていたため、すんなりとチェックインすることができた。ツアーの皆さんはまだ帰って来ない。それまでに、今日一日の疲れを落とそうとシャワーなど浴びながら、ぐったりしたのだった。
やがて夕方近く、ツアーの皆さんが帰ってきた。添乗員さんとも今日の朝以来の再会になる。こうやって、今日のうちに再び合流できたのは、私にはまるで奇跡のように思えたのだった。
すると、添乗員さんが少し脇に私を誘って小声でこう言うではないか。
「海江田さん、実は海江田さんがはぐれてしまったことは、皆さん気がついておられないのですよ。知っているのは私だけです。今回のこと皆さんに言われます?それとも、もう黙ってます?」
とささやかれたのである。そう、一日目で、まだみんなの顔を覚えていない矢先のことだったので、誰がいるとかいないとかも気がついていなかったのだ。
私は
「そうですか。では、もう黙っていてください。私も何食わぬ顔で、このあと皆さんと交流します。」
と返事した。
というわけで、このツアーの間、私がのっけにはぐれた事実など皆さん何も知らないまま、ずっと一緒に過ごしたのだった。
実に思い出深い旅行になっちまった
これが今回の旅行で、私がいきなり体験させられたでっかいトラブルの全容である。言うまでもないことだが、初めての一人海外旅行が、いきなりこんなことになっちゃうとは全くの想定外だった。その点では実に思い出深い旅行になった、ということである。
その後7日間のツアー日程中ほかにもいろいろあった。ちょっとしたトラブルなどもあって、それは記憶に残っている。
逆になんということもなく見て回った有名観光地のことなど、それほどちゃんと覚えていない。こうしてみると、普通の観光旅行など、どうやら私には向いていないのかも知れない。
「旅」に何を求めるのか?私の場合、どうもまともな線で済むことはなさそうに思える。
とはいえ、今回みたいなトラブルは、あまり心臓によくないことも確かである。ちょっとしたハプニングなどを楽しみつつ、それを乗り切りながら、何かしら面白い発見を、というのが私らしい落としどころかな、と思う次第なのだ。

初日のホテルからの眺め。
川っぷちにある景色のいいホテルでした。
おしまい