簡単だけど難しい―分かりきった事ができないもどかしさ―(前編)
地域の事情と私の現状
毎月「市報」が届くと、私はまず最終ページに掲載されている市の人口から確認するようにしている。そうすると、ほぼ毎月市の人口は減り続けている。ごくたまに、転出より転入の方が多くて数人くらい増えている月もあったりするが、おおむね数十人単位で減少しているのだ。
つまり、他の地方と同じく過疎化高齢化がかなりのスピードで進んでいるのが我が町の現状である。こう書きながら、自分もその高齢者の一人であることに気がつく。
ただし、まだ現役で働いているので、若い人に迷惑はかけていないはずだが。私がこうやって現役で働けているのは、税理士という定年のない資格を持っているからというのはもちろんだけれど、一緒に働いてくれるパートナーや部下たちが支えてくれているからでもある。
自身の事務所でやってきたこと
私がこれまでやってきたことと言えば、彼ら彼女らが働きやすい、と思ってくれるような組織を作ってきたことくらいかも知れない。20名足らずの小さな組織とはいえ、デスクワークオンリー、つまり事務系の職場としては、わが町ではまあ多い方の人数だろう。それくらい、ホワイトカラー専門の職場がちょっとしかないのが地方の現状である。
私は父の事務所を継いで、自分がトップになった時、少なくとも職場のルールや雰囲気、挨拶の仕方、礼儀作法、立ち振る舞いといったものは一部上場企業にも負けないくらいのレベルにしたいと思った。と言っても上場企業など勤めたこともなかったので、その雰囲気などがどんなものなのか肌身で知っているわけではなかったが。
地縁血縁をベースにした関係
正直言って、こういった考えや試みは、地方においては若干のリスクもはらんでいる。下手をすれば『何を気取って!』とか『お高くとまってんじゃないよ!』と言われかねない。もっと田舎らしい、地縁血縁をベースにしたいわゆるアットホーム的な親しみやすい接し方もあるのではないか、とも考えた。
実際、父や母の時代はそれでやってきて、うまくいってきたことも事実である。例えば、母などは知り合いの名前を口にするとき、例えそれがお客さんであっても親しい人の場合、下の名前でしかも「ちゃん」付けで呼ぶことが多い。私は、こういった地元の習慣や慣例は全く受け入れることができなかった。
長く田舎を離れていた私は、そういったタイプの付き合い方をしろ、といわれてもどうしていいかよくわからなかったのだ。実際、そうしろとかなり言われたのも事実である。
中間発表としては結果オーライ
しかし、時代は変わっていく。
より上位レベルのやり方を取り入れるのになんの迷うことがあろう、と途中で腹を決めた。それからは、先述のようなオペレーションに切り替えたのである。
最初は戸惑いもあったと思うが、やがて職場のみんなも慣れてきた。もちろん、現在一部上場企業並みのレベルに達しているか、と言えば、そうはいかないのが現実ではある。それでも、雰囲気だけは目指そうぜ、と頑張っているのだ。
と、ここまでは、「私はそうした。」という話である。
自分の職場の話、つまり内側の話、前置きなのだ。
それで結果はどうだったかというと、悪くはなかったんじゃないか、というのが中間発表ということになる。中間発表?・・というのは、まだまだ今の組織も上を目指す途中、道半ばと思っているからだ。
何か打ち手はないのか?!
さて、このことを踏まえて、外に向かってご提案というか提言したいことがあるのだ。それは、ここへきてもなかなか業績が上がらない地元企業に対しての提言である。
地元企業の中には以前はかなりの業績を上げていた企業もある。それが長期低迷に入ってもうずいぶん経つ。既に淘汰され消えてしまった企業もあるが、そうはならなかった、或いはそうするわけにもいかなくて、細々と続けている企業もあるのだ。
事業を続ける限りは、できれば業績を上げたい、儲かりたい、と思うのは、誰しも同じだろうと思う。しかし、一向に業績は上向いてきそうもない。何も打ち手はないのだろうか。
私は長年、地方企業の実態を見ながらそのことをずっと考えてきた。そんな中、周囲にはもう半ば諦め気味の企業も多かった。『特に打ち手もないしなあ・・・』というのが、社長さんたちの胸の内である。
引き継いだ事業を衰退させるなど・・
私も税理士として関与し始めた当初
『まあそうかもなあ・・人口も減り続けているし、昔みたいに所得も上がってくるわけじゃなし、業績の回復は難しいのかもなあ・・』
と、経営者の皆さんに同調していたところはあった。これといった打ち手を思いつかなかったのである。
しかし、少なくとも自分のやっている事業についてはそうはなりたくない、という気持ちは強かった。
引き継いだ事業がひたすら衰退するなどというのは、受け入れられなかった。
そこで、自分の職場に関しては冒頭に記したような手(上場企業並みの職場環境を作る)を打ったのである。
具体的には、職場のルールだけではなく、全体的な雰囲気、風通しみたいなことも重視した。それが業績アップにつながるかどうかというのは、確信があったわけではないが、少なくとも職場の礼儀作法のレベルや雰囲気くらいは好い環境にしたかったからである。
女性スタッフのミーティング風景
つづく