失われた時を求めてⅡ(おしまい)
さて、研修をさぼってこうやって書いている喫茶室の外は雨である。
私の席はうまい具合に大きな柱の陰なので、入口のある表側からはちょうどブラインドになっており人から見られる心配はない。
サボり屋の心理は実に微妙なのだ。
ふと気がつくと、少し離れた席ではやはり研修を抜け出したと見える同じ業界の二人組が先ほどから話をしている。
業界内の、私から見れば何とも真面目な話を大声で語り合っている。
書くことに集中したい私にとって、少し耳障りな騒音ではあるがこっちもサボっている身である・・・仕方がない。
二方が全面ガラス張りで角になったこの片隅は、目の前で雨が直接透明のガラスに叩きつける。
それでもここは、明らかに外とは隔絶された絶妙の空間である。
室内に居ながら半分外にいるような気分。
3杯目を注いだポットのミルクティーはすでに冷めてしまった。
全面ガラスのすぐ外にある御影石の石畳は休みなく降る雨のせいで、表面にうっすらと水溜りができている。
失われし時を求めて・・・というよりも、ただのくつろいだ午後というべきか。
しかし、慌ただしい日常の中でこんな時間はなかなか取れなくなってしまった。
冷めた紅茶をグッと飲み干したら研修の席へと戻るか。
おしまい