売り込む「商品」は君自身だよ―恋愛とマーケティングの不可逆性について―前編
だいぶ昔のことになるが、鹿児島大学工学部の大学院生を相手にマーケティングの講義をしたことがある。
稲盛特別講座という企画の中で、2年間特別講師を務めた。
今はわからないけれど、当時、国立大である鹿児島大学にもマーケティングを専門にする先生はいなかった。
たまたま縁あって、私が講義をすることになったのである。
私のマーケティングはあくまでも実務ベースであって、何か体系的に勉強したことはなかった。
それに私自身、もともとマーケティングを学問として捉えていたわけでもなかったので、主として東京でのマーケティングビジネスの経験をもとに授業を組み立てた。
さて、生まれて初めて大学(しかも大学院)での講義である。
まず「つかみ」をどうしようかと考えた。
学生たちは、おそらく冒頭の「つかみ」が面白くなければ、その後の話にもついてこないだろうと思ったからだ。
そこで私は「マーケティングを例えれば、実に「恋愛」とよく似ているのである。」と切り出した。
これで学生たちは完全に食いついてきた・・・と、思う。
いや、食いついてきたはずだ。
そのときどんな話をしたかといえば、次のとおりである。
― 君たちは恋愛をするとき、相手に対していったいどんなアプローチをするだろうか?(受講生の中には女子学生も少しはいたが、工学部ということで大半は男子学生であった。で、私は男子を主に想定して語ったのである。)
仮に気になる子がいたとしたら、まずその子の背景について知ろうとするのではないか。
名前、年齢(この場合学年)、所属学部、出身地等々、まず相手のことを知らなければアプローチも何もない。
しかし、こちらは、すでに恋愛感情を抱いている身だ。
その程度のリサーチでは、彼女に深く食い込むことはできない。
おそらく、もう少し突っ込んで調べるはずだ。
普段どんなパターンの生活をしているのか。何が好みなのか。趣味はあるのか。
さらに調べて、彼女の友達を通じてアプローチするといった方法も考えられる。
つまり、ターゲットの特性を掴んで、それにふさわしいアプローチの仕方を考えるのではないだろうか。
このとき、ターゲットに対して売り込む「商材」は自分自身ということになる。
だから、その自分もできるだけ彼女に受けがいいように、好みに合うように、見栄えをよくするにはどうしたらいいか、などいろいろ工夫するだろう。
つまり、自分という「商品力」のアップを図るはずである。
そういった一連の、恋愛を成就させようとする思考や行動のすべてがマーケティングと言っていい。
まあこれは、マーケティングにおける基本中の基本のパターンで、ほんの入口あたりと思っていただきたい。
これを応用したのがビジネスにおけるマーケティング活動ということになる。
だから、恋愛における一連の流れは、マーケティングを理解する上でわかりやすい一つのパターン、入門編として頭に入れてください。―
といったような話をした。
もちろん、これはかいつまんで書いたのであり、実際はもっと言葉をいろいろと尽くして説明したのである。
まあ、そんな努力もあって最初から食いつきはいいように見えた。
こんな感じで話してたんすかねえ・・
つづく