現実にはいないんだからねっ!―そんな君から~♬・・女心はわからない―Ⅰ

シンガーソングライターの「さだまさし」を知らない人はいないと思う。

私は熱心なファンというほどではないが、彼の作る歌には好きなものがいくつかある。

中でも初期の頃の日本の情景や風情を歌ったものには、歌詞もメロディーも好きな歌が多い。

「精霊流し」や「無縁坂」などは秀逸な歌詞だと感心させられる。

逆にその後作られた「雨宿り」とか「関白宣言」といったややコミカル路線の類(たぐい)は大して好きになれなかった。

 

ところで、もう一つ彼の歌詞の中に、私の胸に静かにではあるが結構グサリとくるものがある。

それは、「女の子に振られた系の歌」である。

歌詞の中で、はっきりとそう言っているわけではないが、明らかにそうわかるし、むしろはっきりと言っていないがために、より心の奥にグサリとくるのである。

 

彼の歌詞の中に、当初儚げでナヨっと頼りなさげなので、思わず手を差し伸べたくなるような女の子が登場する。

「ほおずき」という歌の中では、浴衣を着た恋人が「お祭りに連れてって。」と向こうから誘ったにもかかわらず、人混みの多さゆえの混乱に巻き込まれて、途中べそをかくという情景が描かれる。

 

昔、

「なんちゅうか、こんな日本風のか弱そうな風情の子がいいんだよなー」

と言ったら、

「あのね、海江田さん、そんなのは男の抱く幻想もいいとこなのよ。現実にはそんな女の子なんていないんだからね。」

と、その頃会社にいた女子に言われたことがあった。

そう言われて私は

『確かに、あんたがそのタイプじゃないのははっきりしているけど、きっとそんな子(「ほおずき」に出てくるような)だっているに違いないんだ・・・』

と、心の中で思ったものである。

 

しかし、これまでの人生をよーく振り返ってみれば、会社の女子が言っていたことの方が当たっているような気もする。

実際、「ほおずき」の歌詞に出てくる女の子は、その後、一人称のこの歌詞の男性(おそらく「さだまさし」自身がモデルだろう)を振ったらしく、彼は「(去年一緒に来た)あの日のお祭りに今夜は一人で来たよ~」と歌っているのだ。

つまり、この一年の間に、たぶん彼は向こうから振られてしまったことになる。

 

もう一つ「縁切寺」という歌がある。

この歌詞も、以前、恋人と一緒に鎌倉に出かけたとき、「縁切寺」の前で彼女は

「ここは縁起が悪いから行かないで。あなたと別れたりしたら生きていけない。」

なんて、可愛いことを言ってくれちゃうのである。

 

ところが、今日訪れている「縁切寺」は、私一人である。

歌詞の中では「そんな君から別れの言葉~」と歌われている。

つい数年前、寄りかかるようにして「あなたと別れることになったら生きていけない・・」なんて、か弱そうなことを言った頼りなさげな彼女だったにもかかわらず、向こうからこっちを振っちゃったのだ。

まさに「現実にはそんな(儚げでか弱そうな)女の子なんていないのよっ。」と言った会社女子の言うとおりになっている。

さだまさしはそんな目に何度かあったことがあるのだろうか。

 

うちの女子たちはみんな強いのだ

つづく