ずっとそうやってはじいていたの??!?―私が新入社員だったあの頃―Ⅲ

大学新卒で入った新宿の公認会計士事務所。

最初に渡された新聞紙大の財務諸表を「頭に入れるように。」と言われ四苦八苦しているのもつかの間、今度は「ソロバンはできるかね?」と問われ、ソロバン未経験の私はさらにパニックに。

小学生レベルの練習帳を購入してパチパチとはじく日々となった。

 

しかし、そんな悪戦苦闘をしてある日、重大な事態が持ち上がった

 

私が慣れない手つきでパチパチとソロバンをはじいていると、くだんの先輩が向かいのデスクから私の手つきを見ていたのだが、やがて自分の席を立ち、私の側に回ってきて後ろに立った。

何事だろうと私は手を止めた。

 

彼は、私の手つきを覗き込むようにして

「海江田君、ちょっともう一回ソロバンをはじいてみて。」

という。

いわれた通り、私がぎこちない手つきでパチパチはじくと、彼はいきなり

「おーい、みんなこっちに来てみろよ。」

と、事務所にいた他のメンバー全員を呼ぶではないか。

 

「な、なにごと?!?」

とみんな集まってくる。

そこで

「海江田君、もう一回ソロバンをはじいてごらん。」

といわれたので、わけのわからないまま、みんなの目の前の数字をパチパチとはじく。

 

すると、みんなの中にどよめきが起こった。

「え、何やってんの?」

「それっていったい・・どうしたの?」

と聞かれるではないか。

 

「どうしたの?」と聞きたいのはこっちである。

わけのわからないまま、アワアワしていたら、

「ずっとそうやってはじいていたの?」

と聞かれた。

 

とにかくわけが分からないので、やや憮然とした面持ちで

「はあ、そうですが、なにか?」

と聞き返すと

「逆だよ、逆!」

と言われた。

そういわれても、なにが逆なのかわからない。

 

そこで私は、初めてソロバンの扱い方を教えられたのだ。

 

なんと私は、ソロバンを下の桁(つまり右)から入れていた

ソロバンは頭、上の桁(つまり左)から入れるということを知らなかったのである。

筆算をするように「下の桁から繰り上がって・・・」とやっていたのである。

 

これでは、いつまでたっても上達するどころか、正確性もおぼつかない。

そこで、散々みんなに笑われて、ようやく私のソロバンはまともになる・・・はずだったが、その後もたいしてスキルアップすることはなかった。

こいつには泣かされました。

今でも持っているところがまた・・・

 

つづく