これでもかっ!現場で考え得る最大の知恵を絞りに絞る―一輪車はクソの山に登る・・過酷な労働につぶされそうになった青春の日々―Ⅵ
北海道の酪農農場に流れ着いた私。
そこで従事した仕事は想定していた以上にハードなものだった。
自然を相手の仕事の途中ではいろいろなハプニングが起こる。
そんなとき、彼らはその場での解決を何としても図ろうと苦心する。
さて、牧場主との野外での作業の際に、上記のような「農民の底力」的な生活上の知恵を見た私だったが、それは1回ではなかった。
様々な場面で臨機応変な工夫や対応、何とかして解決までもっていく粘りのようなものを、彼らの行動の中に見る機会があったのである。
やはり、牧場から牧場へと移動していた時、乗っていた耕運機が道路のぬかるみにはまったことがあった。
耕運機が抜け出せなくなるというのは、よほどのことである。
というのは、耕運機の場合、普通の車よりも深く掘られた溝の大口径のタイヤを装着しているし、馬力も大きい。
その耕運機がはまったのだから、容易には抜け出せないことは明らかだった。
押したり引いたりしたが、埒があかないので、私は半ばあきらめ気味だったが、牧場主はあきらめない。
その辺にあった木の枝を集めて泥にはまった車輪の下に敷いた。
それでも初めのうちはびくともしなかったが、荷台に積んであった板切れや、さらに葉っぱのついた木の枝などを泥の上に重ねて車輪にかませているうちにようやく動き始めた。
私も懇親の力を込めて車体を押し、泥沼から抜け出ることができたのである。
このときも、現場で考え得る最大の知恵を絞りに絞ってトライアルを繰り返して何とか解決に至る、といった「農業従事者の粘り」というものを改めて目の当たりにしたのである。
同じようなことは、2トントラックでもあった。この車も、やはり牧場内で泥にはまってしまい、にっちもさっちもいかなくなったのだ。
このときは車が大きかったので、さすがにほかの牧場仲間に応援をもらって何とか脱出することができた。
この土地では、車が泥にはまる、というのはよくあることらしく、私が働いた牧場主に限らず、ほかの酪農家の人たちもいくつものパターンの脱出方法を知っているようだった。
このときは、春先のことだったのでまだよかったが、これが真冬ともなると動けなくなるのは死活問題だろうから、きっとそういった知恵といったものも重要なのだろうと思ったのである。
つづく