「丁寧に仕上げる」のは「販売促進戦略」の最たるもの―「働き方」について思うこと―Ⅵ
世の中がバブル経済に向かっていよいよ騒がしくなってきた頃、東京で同世代の仲間たちと起業した私。
金余り現象の中、企業はいろいろと新規事業に手を出して、そういった案件の事前調査(マーケティングリサーチ)の受注は引きも切らない状況でした。
まさに時代にぴったりのビジネスに目を付け、取り組み始めた私たちは、順調に受注を重ねました。
しかしながら、いかんせんまだまだ力量不足だったことと、ほぼすべてが前例のないレア案件だったため、超長労働時間という身体を張った対処法でそれらをこなすしかなかった、というのが当時の現状でした。
そんな素人集団にもかかわらず、いや、むしろ素人だったがゆえに一つ一つの案件を丁寧にこなしていったのです。
そのため、労働時間はますます長いものになりました。
「丁寧にこなす」というのは、自分たちとしてはそれが当たり前と思っていましたが、業界そのものは案外それほどではなく、大手のリサーチ会社でも、私たちから見れば結構いい加減な成果物を提出したりしていたのです。
そのことを反面教師として知った私たちは、自分たちなりに、丁寧に仕事を仕上げていくということを実践し始めました。
丁寧な仕事の第一歩としてまず取り組むべきは、なんといっても的を射た「一次情報」の収集に尽きます。
顧客が知りたがっているのは、とにかく市場の一次情報であり、だからこそ「市場調査」の意味があるわけです。
問題はその的確な「集め方」と客観的な「分析力」ということになります。
これはあとで知ったことですが、情報の収集までは請け負っても分析はやっていない会社も随分あった、というか、むしろそっちの方が多かった、ということです。
そんなことはまるで知らなかった私たちは、ひたすら「分析」まで行なって、かなり「丁寧に仕上げたレポート」を納品していたのです。
ということは、丁寧に情報を集め、丁寧に分析し、丁寧に仕上げるわけですから、時間も手間も、べらぼうにかかることになります。
しかし私たちは、この「一切手を抜かない」というやり方で、次々とリピート客を獲得していったのです。
この、分析してレポートを仕上げる、というのは面白いもので、当初はつたないレベルのものしか書けなくても、何本もこなしているうちにだんだん実力がついてきます。
そうやって、やがて、大手企業からもシンクタンクなどからも高い評価を得るレポートが提出できるようになったのです。
そういう意味では、苦労はしたものの「丁寧に仕上げる」というのは、私たちが期せずしてとった「販売促進戦略」の最たるものだった、ということになります。
こういったことを繰り返していたため、私たちはいつの間にか、リピーターとしてのクライアントから、替えの利かない、なくてはならない存在へと登りつめていったのです。
丁寧にやらせていただきます。
つづく