前例のない案件を丁寧に仕上げる―「働き方」について思うこと―Ⅳ

世の中がバブル前夜からバブルの頂点へと、日本経済がまっしぐらに突き進んでいたちょうどそのとき、東京で同世代の仲間たちと起業したベンチャー企業は、その波に乗って急成長を遂げました。

次々と大手企業が仕掛ける新規事業のマーケティングリサーチに関する仕事を、当時はほとんど殺人的ともいえるような忙しさでこなしていたのです。

 

そんな働き方になった要因の一つに、「前例のないことをやっていた」から、ということがあります。

私たちに仕事を振ってきたのは優秀な社員を抱える大企業でした。

優秀であるはずの彼らが、そういった新規の案件を苦手としたのは、まさに「前例のないことをやらされていた」からにほかなりません。

 

そこで困った彼らは、その解決策を「外の力」に求めることを考えました。

予算の範囲内で「外注」に振り出すことができれば、問題の解決に一歩でも近づけるからです。

 

外注先として、まず候補に挙がったのは、大手シンクタンクや大手リサーチ会社でした。

とはいえ、外注費として大手シンクタンクや大手リサーチ会社にかかる金額は安いものではありません。

彼らに発注するには、それなりの大きな予算手当てが必要となります。

これはこれで高いハードルということになるのです。

 

しかも、こういった大手シンクタンクなどが、この手の案件を得意としているとは限りません。

むしろ、斬新な内容のものほど苦手である可能性もあります。

 

というのは、彼ら自身がベンチャーというわけではないからです。

むしろ、自分のこととして新規事業を考える機会は少ないことになります。

 

そのことに気がついたのは、こういった大手シンクタンクから、私たちに「孫請け」として振り出される案件が意外に多かったからにほかなりません。

そのとき、大手は必ずしもこういった案件を得意とはしないのだな、と合点したのです。

 

また、「前例のあるような案件」であれば、大手企業にしてもシンクタンクにしてもそれなりのデータや資料はすでに自分たちで持っています

その量や質は、とても私たちが及ぶものではないでしょう。

斬新な切り口の新規事業には、それがないから彼らは戸惑ったのです。

 

私たちは、自らの存在そのものが「前例のないもの」みたいなものでしたから、どんな案件も「初物」として取り組みました。

前例があるかないかにこだわる必要がなかったのです。

それが私たちの強みだったのかも知れません。

 

といった理由などもあって、小さな組織だった私たちにもビジネスチャンスが巡ってきたのです。

そのとき、私たちがとった方針はただ一つ「丁寧に仕事を仕上げる」ということでした。

この姿勢は高い評価を受けて、リピート率の高さに繋がっていったのです。

 

仕事はかなり丁寧にやりました。

つづく