「プロダクトアウト」と「マーケットイン」についてⅤ
スティーブ・ジョブスについて言えば、確かに五藤氏の言われるように彼の方からマーケティングリサーチといった形で、市場ニーズを聞いたことなどなかっただろう。
一般人には思いもつかないような、彼独特の感性で
「こんなものがあればきっと面白いだろうな。」
と思うものを形にして世に出し続けていったものと考えられる。
そういう意味では、彼はマーケティングなどという手法とは無縁の、天才的な閃きの事業家にも見える。
私もスティーブ・ジョブスという人物についてはそういうイメージを持っていた。
ただ、映画などを通じて、彼の事業家としての軌跡をたどると、彼にマーケティング感覚がなかったかというと、それはまた違う話なのではないか、と考えを改めたのである。
「マーケティング」ということでいえば、ある意味けた外れのマーケティングの天才だったともいえるのだ。
映画の中で描かれている彼は、オタクである友人たちが自分たちのために作った専門性の高いハードやソフトの中に、彼独特の感性で市場性を見出していく。
一方、友人たちはそのことに気がつかない。
友人たちは、別に自分たちが面白ければそれでよかったのだ。
つづく